シリーズ「にっぽんの負担」では、土地、教育、宗教、家族など
身近な話題と税金の関わりについて報じてきました。
とくに土地や建物にかかる固定資産税をめぐる問題に
ついては、読者から多くの反響が寄せられました。
その一部を紹介します。 ■特例適用漏れ、不信感募らす
10月5日付では、高すぎる固定資産税を課すなどのミスが
自治体で相次いでいる実態を取り上げ、一部の自治体では、
過去にさかのぼって取りすぎた税金を返している事例も紹介した。
新潟市の主婦、楠原富美子さん(57)は2012年、自宅の庭に
対する課税の誤りに気づき、13年度から納税額が年3万円
余り下がった。ところが、市は過去に納め過ぎた税金を
返してくれないという。
楠原家は95年、自宅に隣接する約250平方メートルの
土地を買った。97年、その一部を駐車場として整備し
、倉庫を置いたり畑や花壇を造ったりして庭として使ってきた。
自宅の庭は「宅地の一部」とみなされ、固定資産税額が
大きく下がる「住宅用地の特例」が適用されるのに、
適用漏れがあったため、12年度まで17年間にわたり、
誤った割高な税金を払わされていた。
「にっぽんの負担」で、自治体によっては過去に払い過ぎた
税金を戻すケースがあると知り、楠原さんは市のホーム
ページから市長宛てに質問をした。
すると、市の税務を取り仕切る田村敏郎税務監の名前で、
返せないことを告げる手紙がきた。払い過ぎた税を戻すのは
「外見から容易に判断できる土地 に住宅用地の適用漏れが
あった場合」で、「外見上、確認できず、届け出や申告も
ない場合の全ての土地や家屋の利用状況を把握することは
困難」と書いてあ る。
しかし、地方税法は自治体に少なくとも年1回の実地調査を
義務づけている。固定資産税に詳しい神野吉弘税理士は
「固定資産税は自治体が一方的に課税する税金だ。
本人の申告がなくても、自治体は気づかなかったでは
すまない」と指摘する。楠原さんは「ちょっと聞けば、
私たちの庭であることはわかったはず」と話している。
土地の用途や形、条件によって固定資産税額は
変わってくる。評価を決めるのは自治体だが、
疑問を抱く所有者も少なくない。
■土地評価変更、開示せぬ内規
東京都府中市の商業環境デザイナー宮尾舜三さん(71)は
09年、父から相続した新潟県妙高市の土地を確認した
ところ、敷地の周りの土地に敷地並みの固定資産税が
かかっていた。
周囲の土地は家の敷地より一段低く、ぬかるんでいる。
敷地と同じ課税はおかしいと、市役所に確かめると、
周囲の土地は「宅地」から「雑種地」に変更された。
税金も年間約1万円下がって2千円程度になったが、
過去の分は戻らなかった。雑種地とは主な地目に
分類されない土地のこと。自治体が課税の基準を
決めている。
記事をきっかけに宮尾さんが市役所に問い合わせると、
市民税務課から手紙が届いた。「(10年度に)宅地から
雑種地への地目変更ができるよう『雑種地比準表』を定めた
ことから、評価地目の見直しが可能となりました」などと
書かれている。
その意味について、記者が同課に取材すると、市側は、
宮尾さんの指摘をきっかけに「土地評価事務取扱マニュアル」を
見直した、と説明した。指摘の 年までは宅地で評価をして、
翌年から新しい基準を適用したので「間違い」ではなく、
さかのぼって税金を戻すことはできないという。
宮尾さんは「新たな基準を文書で示してほしいと求めたが
回答がない。税額を決めるルールも示さずに課税する
姿勢は信用できない」と不信感をあらわにする。記者も
新たな基準について市に尋ねたが、同課は「市役所の
内規なので開示はできない。今後、検討したい」と答えた。
(松浦新)
■処分できない土地の呪縛
10月19日付では、引き取り手がなく、固定資産税が
かかり続けるだけの土地をもてあます人たちの事例を
紹介した。兵庫県の女性(53)も、80代の母とともに
20年以上、同じ状況で苦しんでいるという。
「救済制度が欲しい」と訴える。
その土地は2人が住む兵庫県ではなく、愛媛県にある。
名義は女性にとって「祖父の兄」だが、40年前に他界した。
登記手続きをしなかったため、土地は亡くなった人の
名義のまま。それでも土地がある自治体は、まず祖父を
「相続人代表者」とみなして固定資産税の納税を求めた。
祖父の死後は伯母、そして母が順に「代表者」に
名指しされ、税金を納めてきた。
高齢の母にとって、遠方にあるその土地(約80平方メートル)に
利用価値はないが、自治体は約130万円の固定資産税
評価額をつけ、毎年1万3千円ほどの納税を迫ってくる。
月5万円弱の年金で一人で暮らす母には大きな負担だ。
女性がその費用を肩代わりしてきたが、女性にとっても
意味のない出費だ。
さらに問題なのは、納税者であるのに自分たちでは土地の
処分もままならないことだ。昨年、土地を買いたいという人が
現れ、司法書士に相談したところ、売るにはまず、名義人を
母に変える必要があると言われた。そのためには相続の
権利を持つ親族全員から同意を得る必要があるという。
名義人が死亡して40年たつ間に、相続の権利をもつ
親族の総数は40人近くに増えていた。いちいち連絡を
取ったり、連絡が取れない人を相手に訴訟をしたりする
手間や費用を考えると、売るのをあきらめるしかなかった。
そうこうするうちに、今度は面識もなかった親族の1人が
母に無断で土地を賃貸の駐車場として使いはじめた。
女性は、土地を使っている親族が納税するのが筋では
ないかと自治体にただしたが、担当者は「相続人代表者の
変更届を出して」と繰り返すばかり。代わりに納税を
引き受けてくれる親族など、現れるはずがない。
「自治体は税金さえ徴収できればよく、納税者の苦しみ
などお構いなし。わざと滞納すれば、土地を差し押さえて
もらえるんでしょうか」。母が他界したら、今度は自分
が自治体から相続人代表者に指定されかねない。
その時は相続放棄を申し立て、この固定資産税の
呪縛から逃れようと考えているという。
(本田靖明)
■<考論>複雑な制度、時代に即して見直せ
不動産コンサルタント「さくら事務所」の長嶋修会長
自治体で固定資産税の取りすぎや計算ミスが後を
絶たないのは、担当者が不慣れなことだけが原因
ではない。制度があまりに複雑なのだ。
住宅用地の特例に限らず、地価が上がった時にできた
激変緩和措置など、「特例」や「例外」が多い。建物では
建材の種類などによって評価が細かく異なる。
自治体の責任は大きいが、制度自体がミスの温床に
なっている面がある。
固定資産税の計算方法も時代に合っていない。
税額を算定するもとになる評価額に市場価値が
十分反映されず、年を経ても資産価値はまだ残って
いる前提で高い評価をしている。いまの評価方法の
原型は建物が戦後まもなく、土地はバブル崩壊後に
確立され、見直されずにきている。
行政サービスの財源である固定資産税が、かえって
住民に不利益をもたらしている。この現状をただすには、
「簡素」という税制の原則に立ち返り、人口減など時代の
変化に即した見直しが必要だ。
◆キーワード
<固定資産税> 土地や建物などにかかる市区町村の
税金。土地は公示地価の7割相当を基本とする評価額を
出して1・4%の税率をかける。住宅用地には評価額
よりも課税標準額を下げる特例がある。1戸あたり
200平方メートルまでは評価額の6分の1、それを
超えた分は3分の1に下がり、税金が安くなる。
非住宅用地とみなされると評価額の70%が
課税標準額になり、税金が高くなる。