世の中は嘘であふれている。
今回はその中の「3つの嘘」を糾弾しよう。
8月17日、日本の2020年度4−6月期のGDP速報値が
発表され、前期比で年率換算27.8%の減少となった。
これを受けて、メディアは「リーマンショックを
上回る戦後最悪の不況」などと騒ぎ立て、有識者も
「回復は最悪の場合、2024年度になる」などと
コメントしている。
こうした見方はすべて間違いだ。
第1の嘘は、このようなコロナショック不況に
ついての考え方だ。
経済は今後、不況にならない。逆だ。世の中はバブルになる
。なぜ、そんなこともわからないのかは大げさに言えば
「21世紀最大の謎」だが、有識者たちの一部は
確信犯なのかもしれない。
今回の不況のサイズは
「史上最小」かもしれない
足元のGDPの減少は、足元だけのことだ。
そして、すでに5月末に緊急事態宣言の終了と
ともに終わっている。7−9月期は必ずV字回復する。
そのV字が緩やかになるかどうかはポイントではあるが。
すでに6月以降、経済は回復し始めている。
この数字に対応して、新たに経済対策を打つ必要は
全くない。少し計算してみれば、すぐにわかるはずだ。
日本のGDPは500兆円強。四半期では130兆円程度。
27.8%というのは年率換算だから、前期比では
マイナス7.8%。実質額では10兆円程度にすぎない。
これがコロナショックのすべてだ。
つまり瞬間的に需要が蒸発しただけだ。
基本は「フローのショック」に過ぎない。
一時的に行動制限されたから、その期間は需要が
失われた。それが終われば終わる。
だから、後をひかない。
不況のサイズとしては、史上最小の不況と言える。
スピードとしても最速だ。ショックで大きく
落ち込んだのは3〜5月の3カ月だけ。
6月からは回復しており、たった3カ月の
経済縮小ショックだった。
史上最悪なのは、瞬間風速だけで、一時的に需要が
蒸発したと言われるその現象だけが特異なだけで、
それ以外は、普通の不況である。
いや、普通以下の、史上最小のミニマムショックだったのだ。
また、コロナショックとは、述べたようにフローの
ショックに過ぎず、ストックは何も傷んでいない。
そこがリーマンショックとも東日本大震災とも違う。
大震災では、生活インフラが、産業インフラが、
農地が、港湾が破壊された。その立て直しには
時間がかかる。だがコロナでは何も壊れていない。
人々のマインド以外は何も壊れていないのだ。
リーマンショックでは、多くの金融資産が失われた。
紙くずになった。バブルに乗って、サブプライムローンで
借りられるだけ借りて、家だけでなく、
自動車も高級家電も買ってしまった。
それらはお金には戻らない。バブル消費は戻らない
。家計は長期にわたって消費ができなくなってしまった。
産業界もバブル消費めがけてビジネスモデルを
作り上げてしまったから、立て直しに時間がかかる。
リーマンショックはストックのショックで、
なかなか立ち直れなかった。
繰り返すがコロナショックは、ストックは何も傷んでいない。
さらに、金融機関が傷んでいない。リーマンショックは
投資家、金融機関を直撃した。そうなると、バブル崩壊の
影響は、幅広く経済全体に広がる。バブルと無関係に
まじめに製造していた工場に対しても貸し渋り、
貸しはがしが起こる。銀行の資本が投資損失で
毀損したから、融資を縮小する必要がある。
バランスシート調整が起こる。
しかし、今回、金融機関は、少なくとも直接は
まったく傷んでいない。今後、経済縮小が広がれば
破綻の連鎖もありうるが、前述のように、
もうフローの危機は終わった。だから、それもない。
したがって、コロナショックはもう終わったし、
後は前に進むだけなのだ。
なぜメディアは「ジョーク」のようなことを言うのか?
それなのに、なぜメディアは
「戦後最悪、人類史上最悪」などと、
ジョークのようなことを言い続けるのか。
それは「期間が短く、瞬間風速が最強だった」という
2つの特徴とともに、特定領域に不況の悪影響が
集中している、という3つめの特徴を持っていることが
理由だ。中小の飲食店、地方の中小の観光、旅館業界、
これがショックを一身に集めて浴びたために、ニュースと
して取り上げやすく、都会の無傷の年金生活者、
大企業サラリーマン、主婦、学生、大学教員などからの
同情を集めやすいニュースであるからであろう。
政治家たちは、もちろん確信犯である。
「危機を煽り、それを救うのは自分たちだ」という姿を
選出したいし、カネが動けば実利が伴う人々
もいるだろうから、
「この経済ショックはたいしたことはない」
などとは決して言わない。
不思議なのは、エコノミストなどの有識者たちだ。
GDPの年率減少27.8%に対してはようやく
「年率換算はミスリーディングだ」と言い始めた。
日ごろは意見が合わない双日総合研究所の
チーフエコノミストであるかんべえ(吉崎達彦)氏
ですら、これについては私と同意見のようだ
(詳しくは『溜池通信の8月19日の欄を参照』)
。だいたい、これまでは
「コロナショックは大したことがない」と言っていた
経済学者など、ほとんどいない。
これは経済学者や有識者の悪い癖である。
危機であるほうが、対策、経済対策の提案、議論など、
発言する機会が増える。それゆえ人々が
「危機ではないか」と恐れているときは、
それを煽るほうが、仕事がある、あるいは正義の
味方として議論に登場するという「快感」が
得られることから、危機だと思わせる節がある。
メディアももちろんそれを歓迎する。
今回、GDPの速報値が発表される前に、
「テレビ出演してコメントしてくれ」、という事前の
依頼が私にも殺到した。念のため
「どのような見解ですか」と聞かれたときに
「全然大したしたことない。GDPが前期比マイナス30%に
なっても気にすることはない」と明快に答えていたら、
すべての依頼は立ち消えになった
(それでこの記事を書いている)。
嘘は「単なる嘘」だけでは済まず、高くつく
これは日本社会の悪癖だ。そして
「メディアと有識者は酷い!嘘つきだ!」と
いうだけでは済まない。この嘘は高くつくのだ。
なぜなら、この嘘に基づいて、政治家たちは
政策を打つ。国民に受けるような政策を打つ。
つまり、ばら撒きだ。いわゆるコロナ給付金は、
必要ない人(前述の都会の無傷の人々など)にも
1人10万円配られた。そのお金がアマゾンや
家電量販店、さらには百貨店などにも向かい、
そして株式に向かった。巷ではロビンフッダー
などと呼ばれる「にわか個人投資家」が、
アメリカにも日本にも溢れている。
先日も、日比谷線の六本木駅で非常に若くて
煌びやかな女性が、私のすぐ近くでバーキンに
似たバックの中からスマホを突然2台取り出したので
「なんだろう」と思っていたら、緑と赤の文字が
フラッシュしているのが目に入ってきた。
株価ボードだったのだ。
そう、これから起こることは、第1に
「無駄なばら撒きによる株価バブル」だ。
一時的なフローのショックなのに、
FED(アメリカの中央銀行)をはじめ世界中の
中央銀行が、リーマンショック以上の大規模緩和を
している。そして、金融緩和は急にやめることは
できない。バブルは必至だ。
いや、すでに始まっている。
1つ目の嘘が長かったが、これが第2の嘘だ。
つまり今後は、デフレにもインフレにもならない。
バブルになるのである。
いや、もうすでに大きなコロナバブルが始まっている。
この点で、わが同僚でかんべえ氏とともに
この持ち回り連載を担当している経済評論家の
山崎元氏も「嘘」をついていることになるのではないか。
山崎氏は
「アフターコロナはバブルになる可能性が大きい」
などといっているが、すでにバブルは始まっていて、
すでに佳境を迎えている。可能性が大きいのではなく、
100%で、もう起きている。
競馬で言えば、先週のレースの予想をしているようなものだ。
このバブルは、もう少し膨らむだろう。
そして、山崎氏が最後に指摘しているように、
結末を迎える。そう。もちろん、崩壊するのである。
そして、山崎氏と残念ながらまったく意見が同じなのだが、
肩代わりするのは、今度は中央銀行ではなく政府だ。
政府の財政のばら撒きにより、すべてのしわ寄せは
政府に来る。つまり、財政破綻となる。
問題はその先だ。どうなるのか。
私は、大転換が起こると思っている。
ただし、これはコロナショックで転換が
起きるのではない。「世界の知性」などと
呼ばれるような人々が
「コロナで世界が変わる」という類の本をにわかに
出版しているが、嘘だ。これが第3の嘘である。
コロナで世界は何も変わらない。
言ってみれば、やっかいな感染症が1つ増えただけだ。
21世紀は感染症の世紀で、すでにSARS、MARS、
新型インフルエンザと3つも増えていて、
新型コロナも4つ目が増えるだけで(
少しより厄介だとしても)、世界は何も変わらない。
変わるとすれば、すでに変わっているのであって、
感染症の21世紀はだいぶ前に始まっていた。
そのほかの変化もまったく同じで、すでに起きていた
変化が加速しているだけだ。新しい働き方も、
DX(デジタルトランスフォーメーション)とか
何とかいうやつも、高齢者施設のあり方も、
医療のあり方も、すべて新しい現実はだいぶ前に
始まっていた。その変化が加速しているだけのことだ。
何も新しいことはない。
地政学についても同じだ。中国をはじめ、コロナ対策での
アジア諸国のパフォーマンスのよさや、国ごとの実力の
差が顕在化した欧州については誰の目にも明らかになった。
アメリカは金融市場こそ豊かで依然盛り上がって
いるように見えるが、社会インフラは脆弱であることが、
再度確かめられた。コロナによる死者の多さも
格差社会のひずみが大きく影響している。
しかし、これについても間違った議論が多い。
世界の知性は「世界が変わる」などといっているが、
そうではない。アメリカの覇権の放棄、中国の
影響力のさらなる拡大が加速するだけだ。
その点で、かんべえ氏の、ドナルド・トランプ大統領に
ついての最近の議論も一部間違っているのではないか
(詳しくは「『いかさまハリス』と罵るトランプ陣営の勝算」をご参照)。
どうも日本のインテリ層、政治家、官僚たちは共和党が
好きなようなのだが、少なくとも、その延長線上で
「トランプ大統領のほうが日本にとって望ましい」
という議論をしたがるのは明らかに間違いだ。
トランプでいいことはひとつもない。
そして、そういう議論を有識者たちがしているのは、
世界で日本だけだろう。
日本の保守系有識者たちが、民主党よりも、共和党を
好む妥当な理由の多くは、軍事戦略によるものだ。
共和党のほうがタカ派であると同時に、無駄な介入はせず、
合理的に「アメリカ第1主義」の安全保障戦略をとる。
一方で民主党は、中途半端な正義感から介入してしまったり、
中国の経済市場の魅力におぼれて外交的に譲って
しまったりということがあるからだろう。
ここは賛否両論あるし、どちらもあり得るのだが、
トランプ氏がアメリカの大統領であることで
世界の安全保障にとってよいことなど、ひとつもない。
またトランプ大統領が表面的に対中強硬派で
あることは、仮に短期的に効果があったとしても、
長期的には何のよいこともない。
外交は常に長期で考えるべきである。
長期で考えれば、短期的に中国を封じ込めること
よりも、アメリカ、欧州、中国の3極の均衡の下に、
中国がこのバランスを崩せないようにすることのほうが
重要だ。つまり、中国がその均衡から抜け出そうとすれば、
米欧の利となるような状況を保ち続けることが、
中国の世界的覇権掌握への抑制となるからだ。
短期的な対中強硬策は、何の役にも立たない。
最重要事項は「欧州とアメリカの結束再強化」
トランプ大統領による「世界秩序の破壊」でもっとも
深刻なのは、アメリカと欧州の関係に傾きが
生まれたことだ。まもなく亀裂になるかもしれない。
欧州は、明らかに米中のバランスで言えば、
中国側に傾いている。どんなに表面的に中国を
非難しようとも、実質的には、中国を責めることはない。
対中包囲網を作りたがっているのは、せいぜい、
アングロサクソン国家だけで、しかも、イギリス、
カナダ、豪州の対中包囲網は経済的に余裕のない、
彼らにとっては非常に危うい、
持続可能とは思えない「絆」だ。
したがって、現在最も重要なのは、アメリカに
世界秩序維持から抜け出させないことであり、
欧州とアメリカの結束を再度強めることであり、
それにはトランプ大統領は最悪である。
とにかく欧州は余裕がない。ロシア、ベラルーシ、
ウクライナに対する安全保障リスクに対しては一枚岩に
なれるかもしれないが、中国に対してはもはや
不可能に近いだろう。したがって、中国との関係を
切らせるのではなく、米欧の結束を強めることで
3極のバランスを取る以外に方法はないのだ。
また、アジアの安全保障はもちろん重要だが、
長期的には、グローバルに中国を押しとどめられ
なければ、アジアは中国に完全に支配されるのは必然だ。
すでに、実際には、アジアは中国に支配されて
しまっているといってもよいかもしれない。
香港、台湾の問題では中国が強硬に出ざるを得ないのか、
もはや出ても大丈夫だと判断したのか、
それとも失敗なのか、意見は分かれるだろう。
だが、言ってみれば勝負に出られるほど、
アジア支配はほぼ確立したと言っていいだろう。
もうじたばたしても遅いのだ。日本も現実を直視する必要がある。
コメントです。
コロナ下の経済影響、
そして今後の展開について、
経済学者の視点で意見されています。
市井の現状感はやや欠けるようですが、
ポジティブな予想展開は好感が持てます。