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2013年09月04日

イラクの亡霊、英のシリア介入阻む

イラクの亡霊、英のシリア介入阻む
朝日新聞  2013年08月31日

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29日、英下院で演説するキャメロン首相=ロイター

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【ロンドン=伊東和貴】その「根拠」は、A4判の紙3枚に過ぎなかった。
29日午後、シリアのアサド政権への武力行使に道を開く政府提出の
動議を審議する英下院臨時議会。キャメロン首相は「我々が何も
しなければ、シリアは何度でも化学兵器を使う」と声を張り上げ、
理解を求めた。読み上げたのは、情報機関を束ねる統合情報
委員会がまとめた報告書の抜粋。
「目撃証言、ソーシャルメディア、95本以上あるビデオ映像……。
化学兵器シリア政府が使用したことに疑いの余地はない」

ただ、中身は、ウェブ上の映像など公開情報の分析が中心だった。
キャメロン氏は言い放つ。
「決定的証拠はない。判断を下すのはあなたたち議員だ」

野党労働党のミリバンド党首は迫った。
「我々はイラクの教訓に学ぶ必要がある」。シリア介入の是非を
話し合うはずの約7時間の討論で、イラク戦争のことが
何度も取り上げられた。

結局、動議は13票差で否決。キャメロン氏率いる保守党
からは30人の造反議員が出た。

10年前の3月、「大量破壊兵器がある」という虚偽情報に
基づき英国が米国に追随したイラクへの参戦。今回、英国に
シリア介入を断念させたのは、その「亡霊」だった。

「過去の失敗の亡霊にとりつかれて、正義のために戦う力を
まひさせてはならない」。29日の英下院で、キャメロン首相は
シリアへの介入の必要性を訴えた。

イラク戦争への参戦は当時のブレア首相の最大の汚点となり、
後の退陣につながった。「イラクは命令から45分以内に大量
破壊兵器
を配備できる」といった開戦前に発表された政府文書は
後に情報操作が指摘された。約180人の英兵が死亡、イラク
民間人の犠牲は11万人を超え、開戦の正当性をチェックする
英独立調査委員会の検証は今も続く。

キャメロン氏は当時、野党議員としてイラク開戦に賛成票を投じ、
弁舌巧みなブレア氏の「後継」を自任しつつも、開戦のプロセス
自体は批判してきた。それが今回、「シリアの状況はイラクと
根本的に異なる」と弁明する立場に回ったのだ。

イラクで分裂した各国だが、シリア化学兵器使用は一致して疑い、
アラブ連盟もアサド政権を批判する。今回は政権打倒ではなく、
市民の保護が目的だ。国連安保理には英国が起草した
決議案を出している……。この日の議会でこうした違いを列挙した。

ただ、世論の厭戦(えんせん)気分は根強い。英YouGov社の
最新の調査では、海上からのミサイル攻撃への反対は51%で、
支持は22%。英国際戦略研究所のイラク専門家トビー・ドッジ氏は
「国民はイラクでウソの大義で戦争に加担させられた。
なぜもう一度やる必要があるのか、との思いがある」と指摘する。

今回のシリア介入断念が、英米の「特別な関係」の節目になるとの
指摘もある。ミリバンド氏は動議否決後「英国は過去の教訓に学んだ。

特別な関係は米大統領の望みどおりに動くことではない」と述べた。

否決劇から一夜明けた30日、キャメロン氏は英メディアに淡々と
語った。「民主主義を尊重したかった。
米国民もオバマ大統領も分かってくれる」

■米「同じ間違いしない」

【ワシントン=大島隆】英国の離脱は、米オバマ政権にとっても
想定外だった。ヘーゲル国防長官は29日、訪問先のブルネイで
「行動を起こすなら国際的に協調したものになる」と語り、
英国抜きの介入を否定したばかりだった。

国連安保理の決議が得られそうにない中、国際的協調の
アピールが重要で同盟国でも「特別な関係」と形容される
英国の離脱は今後のオバマ政権の軍事・外交戦略に大きく
影響する。
過去にイラク戦争を強く批判してきたオバマ
大統領
は、武力介入に積極的ではなかった。
ただ、アサド政権に対して化学兵器の使用を
「越えてはならない一線」と明言。28日のインタビューでも
武力行使を強く示唆し、後には引けない状況だ。
何も行動しなければ米国の威信が傷つき、化学兵器を使っても
罰せられないという誤ったメッセージにつながりかねない。

ここ数日、「イラクの二日酔い」「亡霊」「イラクの影」といった
言葉が頻繁に登場するのは、米メディアも同じだ。

「イラクとシリアは全く違う。我々はイラク戦争と同じ間違いは
繰り返さない」。米国務省のハーフ副報道官は29日、
アサド政権の化学兵器使用を裏付ける情報の確度を
問われると、何度も強調した。しかし、米記者から逆に
「今回のハードルは前回より高い。世界に対し、今度こそ
同じ間違いを繰り返さないと示す必要がある」と諭された。

シリア政府の化学兵器使用の根拠とされる情報には、
シリア軍内部の電話会話の傍受記録などがあるという。
だが、複数の米メディアは、アサド大統領や政権高官が
指示したという確実な証拠がないと報道。大量破壊兵器
発見されなかったイラク戦争の記憶がよみがえりつつある。

もう一つの「イラクの影」は、軍事作戦の長期化への懸念だ。
イラク戦争では開戦1カ月半でブッシュ大統領が大規模
戦闘の終結を宣言したが、完全撤退が2011年末まで
ずれ込み、米軍の死者は4千人以上に達した。
「大統領は終わりのない軍事作戦を考えているわけではない。
限定的な措置だ」。ホワイトハウスのアーネスト首席
副報道官はこう弁明に追われた。

ハフィントン・ポスト世論調査では、空爆賛成は25%に

とどまり、反対が41%と大きく上回った。
議会でも反対論や事前の議会承認を求める意見が
民主、共和党双方から出ている。

オバマ政権は駆逐艦からの巡航ミサイル発射軍事施設
攻撃する案を軸に検討。しかし、軍事専門家の間では、
短期的な空爆をアサド政権が持ちこたえ、紛争の泥沼に
はまるとの懸念も根強い。新米国安全保障センターの
デービッド・バルノ上級研究員は「限定攻撃が限定的な
まま終わることはほとんどない。シリアの場合も、米国は
危険な紛争の当事者にならざるを得ないだろう」と指摘する。

■仏、米との協調崩さず

【パリ=稲田信司】一方、米国と協調し、シリアへの軍事
介入に踏み切る姿勢を崩さないフランスオランド大統領
9月4日に開かれる議会の前に介入する可能性も示唆する。

国防省は既に臨戦態勢に入っている。
地中海
にフリゲート艦を派遣。アラブ首長国連邦のアブダビと
ジブチの仏軍基地に戦闘機ラファールを配備した。

フランスは大統領が軍の統帥権を握る。

議会承認なしに国外での軍事作戦への参加を決めることが
でき、開戦から3日以内に議会に報告する義務がある。
オランド氏は9月4日に議会を招集。30日付ルモンド紙で
「もし私の命令でフランスが介入していたら、政府は介入の
手段と目的について報告する」と語った。

ただ、フランスは米英が主導したイラク戦争を「国際法
違反する行動」と断じ、強硬に反対した過去がある。
当時、外相として反対の急先鋒(きゅうせんぽう)だった
ドビルパン元首相は28日、「軍事力は複雑な危機を
解決するのにふさわしくない」と発言。英国が不参加を
決めた後、与党社会党内部からも慎重論が出始め、
最大野党の民衆運動連合(UMP)ではフィヨン、ラファラン
両元首相が国連安保理決議のない介入に反対の
姿勢を示している。

オランド氏は同紙に「イラクの場合、(フセイン政権が)
大量破壊兵器
を保有している証拠のないままに介入した。
シリア
では化学兵器が使用された。(シリア介入は)
政権転覆を目的にしていない」と状況の違いを説明した。

30日の仏紙パリジャン(電子版)の世論調査では
国連安保理決議なしの介入」への反対は82・6%に上り、
賛成の17・4%を大きく上回った。

    ◇

イラク戦争〉 2003年3月、イラクのフセイン政権打倒を
目的に、米英主体の有志連合軍事作戦を開始。
5月にはブッシュ米大統領が戦闘終結を宣言した。
武力行使を明確に容認する国連安保理決議はなく、
仏独も強く反対したが、米は「イラクが大量破壊兵器
開発している」とする「証拠」を示し、「戦争の大義」とした。
その後「証拠」は虚偽だったと判明。米軍の完全撤退は
11年末までずれ込み、死者は4千人を超えた。
開戦からこれまで、民間人の犠牲者は11万人を超えるとされる。



コメントです

緊迫するシリア情勢の記事です。
英国のポジションが明確になってきましたね

posted by salsaseoul at 01:02| Comment(0) | TrackBack(0) | 中東
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