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2013年08月30日

アメリカはどうしてシリア攻撃に踏み切ろうとしているのか?

アメリカはどうしてシリア攻撃に踏み切ろうとしているのか?
ニューズウィーク日本版 8月29日(木)

先週21日に「アサド政権は自国の反政府勢力に対して
化学兵器を使用した」というニュースが報じられたのを受けて
「シリアへの介入論」が高まっています。
今日(8月29日)から翌30日にかけて、アメリカが攻撃を開始する
という説も相当に濃厚になっているようです。
アメリカは、アフガンとイラクの戦争で大苦戦を強いられると共に、
国が大きく傾くほどの経済的なダメージを受けました。これを受けて、
国民の間には強い厭戦気分があります。
また、9・11以降続いていた、自国の安全のためには手段を選ばず
という本能的な心理も消えています。
何よりも現在のアメリカは2008年9月の「リーマン・ショック」以来の
不況をようやく脱しつつある中で「軍事費を聖域とはせず」という方針で
国家財政の健全化に取り組んでいる最中でもあります。
そうした時代の流れの中で、アメリカの世論は今回の「シリア攻撃」を
支持はしていません。
一部の調査によれば9%の支持しかないという報道もあります。
2016年の有力な大統領候補と言われている、ランド・ポール上院議員
(共和党)は議会決議なき開戦には強く反対するという声明を発表して、
大統領への非難を強めています。
では、そのような状況下でありながら、どうして難しいとされる
シリアへの介入に踏み切らざるを得ないのでしょうか? 
3つ大きな理由があります。
1つは、化学兵器の使用という問題です。現時点では国連の調査団が
入ってはいますが、その調査団への銃撃などもある中で十分なデータは
集まっていません。ですが、とにかく「WMD(大量殺戮兵器)」の使用と
いうのは重大な国際法違反であり、国際社会として何らかの懲罰が
下されなければならないというのは、アメリカの強い方針なのです。
例えば、ブッシュは「フセインはWMDを手にした」という理由でイラクに
侵攻しています。
オバマをはじめとする民主党はこれには批判的でしたが、それは
「WMDはなかった」という観点に基づくものであり、仮に「WMDが
実際に使用された」という場合に「それでも介入しない」という
選択肢は、基本的にはアメリカにはありません。
実際に「WMDは使われたがアメリカは何もしなかった」という事例を
作るということは、例えば核開発を続けるイランや北朝鮮、あるいは
非合法的に核を所有しているとされるパキスタンやインド、更には
イスラエルなどへの「絶対に使ってはならない」というプレッシャーが
「無効」になることを意味します。
世界の安全保障の秩序が崩れてしまうのです。
今回の件は、シリアの背後に存在するロシア、そしてロシアに
追随する中国が拒否権行使を行う可能性が濃厚であり国連安保理の
「お墨付き」を得ての軍事行動ということにするのは困難です。
従って枠組みとしてはNATOを前面に出すことになります。
いずれにしても、WMDの使用が事実であれば、アメリカは
「動かざるを得ない」のです。
第2の理由は、地域の情勢です。シリアのアサド政権の背後では、
ロシアが公然と支援を行っており更にはイランが支持をしています。
化学兵器を使用したという事実が判明したとして、アメリカがこれを
静観するということは、この地域におけるロシア、あるいはイランの
態度に対して、間接的に屈服したことになるのです。
イランとの間では、核開発の問題、イスラエル敵視の問題ということで、
長年の確執を続けてきたアメリカです。
ここで弱みを見せることはできません。
また、ロシアに関しては、人権問題での激しい応酬を続けてきた
だけでなく、最近ではボストンでのテロ事件を巡る駆け引き、
そしてスノーデン亡命事件と暗闘を続けています。
そうした文脈の中に、今回の「化学兵器の使用」という事件を
置いてみると、やはり静観はできないということになります。
第3の理由は、2期目に入ったオバマ政権として新体制となった
軍事・外交の責任者たちの「真価が問われる局面」だということです。
具体的には、ジョン・ケリー国務長官、チャック・ヘーゲル国防長官、
スーザン・ライス安保特別補佐官、サマンサ・パワー国連大使という
新任4名です。
この4人には、対シリアに関して「積極的」になるそれぞれ個人的に
強い理由があります。まずケリー国務長官ですが、彼は国務長官
就任に当たって「中東和平」を大きなテーマに掲げると言っている手前、
この地域での米国の主導権維持は重視しないわけには行きません。
次にヘーゲル国防長官ですが、基本的に彼は「軍事費のコストダウン、
ただし必要な場合は隠密作戦で」というタイプですが、対イラン政策が
「弱腰」だという批判を浴びたという「過去」があります。
ですから、今回は「決して弱腰ではない」という姿勢を見せたいようで、
積極的な姿勢を見せています。
ライス補佐官(コンドリーザ・ライス氏とは別人のスーザン・ライス氏)に
関しては、もっと大変です。
彼女は国務長官の椅子を狙っていたのですが、国連大使時代に
「ベンガジでのアメリカ大使館襲撃」の直後に
「デモ隊の延長での偶発的な事件」だという見解を示したことが
「認識が甘く不適切」だということで問題になり、共和党の執拗な
攻撃の前に「国務長官の座を断念した」過去があるのです。
彼女の場合も、「汚名挽回」を狙って強硬策に乗りたい口でしょう。
極めつけはパワー国連大使です。彼女の場合は「世界における
虐殺(ジェノサイド)を防止するアメリカの責務」というトピックを
個人的なテーマに掲げてハーバードのケネディ・スクール
(行政大学院)で論陣を張ってきた人で、過去のバルカン半島の
問題や、リビアの問題でもアメリカの積極的な関与を強く主張して
きた人です。今回のシリア情勢というのは、そのパワー大使の
「個人的なテーマそのもの」だと言えます。
最後に「何故、今なのか?」という問題ですが、オバマ政権は
「エジプトのモルシ政権崩壊」という事態を待っていたフシが
あります。仮にシリアが西側の攻撃への報復として、本格的に
イスラエルへの侵攻を行った場合、エジプトに「反イスラエル」の
モルシ政権が存在するようですとイスラエルの「挟撃される恐怖心」が
暴走して大変ことになる危険があったわけで、その要素が軽減されて
いるということが「今」まで待っていたことの理由だと考えられます。
そんなわけでオバマ政権は相当に「ヤル気」になってきているのですが、
カーニー報道官がいみじくも語っていたように今回の動きは
「アサド政権の交代を狙ったものではない」というのはホンネだと
思います。というのは、アサド政権が万が一崩壊した場合の
受け皿はないからです。受け皿がない中で、ではどうして強硬策を
取りつつあるのかというと、それは「化学兵器を二度と使うな」という
メッセージを送りたいからですが、そのメッセージを嘲笑するかのように、
アサド政権は色々なことを仕掛けてくる可能性は十分にあります。
その場合、問題になるのはロシアの出方でしょう。
アメリカは最終的にロシアを黙らせるためには「ソチ五輪のボイコット」を
チラつかせる可能性があると思います。
さすがにスノーデン事件を理由としてのボイコットは「格好悪すぎる」ので
思いとどまっているアメリカですが、「化学兵器使用を繰り返す」
アサド政権を支援して恥じることがない、ということになるようですと、
分かりません。
とにかく、シリアの背後にいるロシアとの駆け引きが今後のメイン
ストーリーになっていく、その一方で、エジプト情勢、イランの新政権の
性格などこの地域のそれぞれのプレーヤーがどう動くかによって、
このシリア情勢というのは複雑に変幻していくように思います。
欧米では「強硬策は不可避」と腹をくくる一方で、その一方で
「解決のシナリオはなし」という悲観論が広がっています。
その攻撃の具体的な方法ですが、アメリカやNATOの
過去のパターンからすると、シリア上空に「飛行禁止区域
(ノー・フライ・ゾーン)」を設定して制空権確保の後に、
標的となる化学兵器の保管が疑われる場所、あるいは
ミサイル関連施設などの空爆に進むのが「常套手段」です。
ですが、今回のシリアはロシアから購入した高性能の
「地対空ミサイル」を大量に保有しており、簡単に制空権は
取れないと言われています。
従って、地中海海上のミサイル駆逐艦からの誘導ミサイルによる
攻撃が主となるようですが、これも迎撃される危険があります。
また、情報戦に優れたシリアはミサイルが着弾したとして
「民間人の誤爆」などの事件を指摘して抗議するなど、
様々な可能性が予想されます。
米国は3日間程度のミサイル空爆で済ませたい考え方の
ようですが、その空爆自体がそう簡単に成功するかどうかも
疑わしいように思います。
とにかく事態の推移が大変に懸念されます。

冷泉彰彦(作家・ジャーナリスト)


コメントです

緊迫するシリア情勢の記事です。
今後の動向が気になりますね

posted by salsaseoul at 02:08| Comment(0) | TrackBack(0) | 中東
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