読売新聞 2013年8月5日

出産の危険が高まる双子や三つ子などの多胎児を妊娠した際、
胎児の数を減らす減胎手術の実施を公表している諏訪マタニティー
クリニック(長野県下諏訪町、根津八紘院長)で、異常が
見つかった胎児を選んで手術を行ったケースが、これまでに
36件あることがわかった。
8日から大分県別府市で開かれる日本受精着床学会で
発表される。母体保護法は減胎手術について定めておらず、
国も具体的な指針を作っていないが、こうしたケースが
初めて明らかになったことで、今後、議論を呼びそうだ。
同クリニックによると、減胎手術の理由は、ダウン症などの
染色体の病気が25件、胎児のおなかや胸に水がたまる
胎児水腫などの病気が11件だった。31件が不妊治療に
よる妊娠だった。
いずれも、夫婦が「減胎できなければ、すべての胎児を
中絶する」との意向を示したという。今回の減胎手術に
ついて、根津院長は「一人でも命を助けるために、
やむを得ず行った」としている。
◆減胎手術=多胎妊娠となった場合に、母子の安全性を
高めるための処置として始まった。超音波で確認しながら、
子宮内で一部の胎児を心停止させる。通常、胎児の異常が
ほとんどわからない妊娠初期(12週未満)に行われる。
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「自分を責めたが、この道しかなかった」――。
諏訪マタニティークリニック(長野県下諏訪町)で、異常が
見つかった胎児を選んで減胎する手術を受けた夫婦3組が、
読売新聞の取材に応じ、苦渋の決断をした胸中を語った。
一方、ダウン症の子どもの家族からは「障害を受け入れない社
会にも問題の背景がある」との声が聞かれた。
2010年夏、中部地方の主婦(39)は、おなかの中の双子の
羊水検査の結果を聞いた。
結婚3年目、体外受精で待望の妊娠だった。
だが、妊娠10週の超音波検査で、1人に染色体異常の疑いが
あると言われ、羊水検査を勧められた。
結果は、ダウン症。10歳上の夫と話し合った。主婦は、ダウン症の
いとこがおり、おじおばが愛情を注ぎながらも、苦労する姿を見てきた。
「将来、私たち夫婦が亡くなったら、同時に生まれてきた
きょうだいに大きな負担をかけてしまう」
病院で中絶手術の日程を予約したが、「年齢的にも最後かも」と
思うと簡単にはあきらめられなかった。
諏訪マタニティークリニックのことを知り、減胎手術を受けた。
11年春、女児を出産した。亡くなった胎児は、火葬し、
故郷のお墓に入れた。
墓参りのたび、「ここに妹がねんねしているよ」と、家族で手を
合わせる。「目の前にいる娘を救えた意味を深くかみしめている」
関東地方の主婦(31)は10年末、排卵誘発剤による不妊治療で、
三つ子を妊娠した。不妊クリニックの院長から、「このままだと、
流産の危険が高い」と説明を受け、妊娠8週で減胎手術を受けた。
出産する病院で、残った2人のうち1人がダウン症だとわかり、
諏訪マタニティークリニックで2度目となる減胎手術を受けた。
「欲しくてたまらなかった子どもなのに、自分たちの都合で、
ひどいことをしていると自分を責めたけれど、この道しか
なかった」と主婦。「出産をあきらめていたら、妻の精神的
ショックは計り知れず、立ち直れなかっただろう」と夫(34)は話す。
12年夏、関西地方の夫婦は、妻(35)のおなかの双子のうち
1人の脳に障害があると告げられた。重度で、寝たきりになるという。
異常がある胎児の脳が大きく、もう1人も順調に成長できない
おそれが高い。「元気な子どもを出産できる可能性を高める方法」と
して、主治医に紹介状を書いてもらい、減胎を選んだ。
夫(37)は、「子どもを授かり元気に生まれてくることは奇跡の
ようにありがたいとわかった。思いがけない現実に突き当たり、深く
考えて、やむを得ない選択をした夫婦がいることをただ知ってほしい」。
異常のある胎児を選んで手術が行われていたことについて、
ダウン症の子どもを持つ父親(53)は、「個々の夫婦の選択や、
技術の否定はしない」とした上で、「ただでさえ育児の負担が
大きい双子や三つ子で、1人の異常がわかれば、より産むことを
ためらうだろう」と想像する。
「背景には、障害を持った子どもを持つ親が、希望しても、なかなか
通常学級に入れないなど障害を容易に受け入れない社会がある。
障害を持つ人と共に学び働いた経験の有無が、選択に影響を
与える。社会を作る一人一人が考えるべき問題だ」と話す。
減胎手術の話題です。
「倫理的に…」などと、当事者以外がメディアで
発言しているようですが、それらはあくまでも
外野的発言であって、すべては当事者である両親の
決断を尊重するべきでしょう。