ぜんそく患者「コロナ禍で急減」という衝撃事実
予防や服薬など患者の行動変容が引き起こした
2020 11 05 東洋経済

新型コロナウイルス(COVID-19)
流行期に「ぜんそく(喘息)」に
よる入院患者数が
急減したことがわかった。
気管や肺に感染するウイルスは一般に、
ぜんそくを悪化させると知られている。
そこで、新型コロナも同様にぜんそくの
コントロールを増悪させると考えられ、
医療関係者の間では、新型コロナ流行当初、
ぜんそくの入院患者数が増加する
可能性が危惧されていた。
これは大規模診療データベースを
分析する研究で判明した事実だ。
大規模診療データベースの研究に
よる想定外の結果は、これまで医療で
“当たり前だったこと”を見直す機会に
なるかもしれない。
手指消毒やマスク着用が効いている?
この診療データベース研究は、
東大大学院医学系研究科・公衆衛生学教室の
宮脇敦士助教らのチームと、データック
代表取締役CEO兼医師の二宮英樹氏が
共同で行ったものだ。
ぜんそく入院患者数の減少は、
新型コロナからの感染予防行動だった
手指消毒や、マスク着用による花粉などの
アレルゲンへの暴露(さらされること)の
減少が主な要因だと推測される。
今回の研究では、
メディカル・データ・ビジョンの
国内最大規模の診療データベースを用いた。
この研究の論文は、
アメリカアレルギー・ぜんそく・免疫学会
(AAAAI)の公式学会誌
『The Journal of Allergy and Clinical Immunology:In Practice』誌
オンライン版に2020年10月13日付
(日本時間)に掲載された。
公衆衛生を専門にする宮脇助教は
新型コロナが流行する中で、世界的に
知られる医学雑誌『The Lancet』の
姉妹誌である
『Lancet Respiratory Medicine』の記事で、
アメリカの小児病院の救急外来でぜんそくに
より受診する患者が減ったとする調査研究を
目にし、驚いた。
その後、欧州の人口200万人超のスロベニアに
ある小規模病院でもぜんそくの入院が
減少していることなどを耳にした。
ところが、これらの研究の中には、
年齢別の傾向などが
はっきりしないものもあった。
そのため宮脇助教は大規模診療
データベースを用いて、年齢階層別などの
詳細な研究をしたいと考えていた。
今回の診療データベース研究は
全国272病院の2017年から今年(2020年)の
1月から5月の間にぜんそくを主病名に
持つ入院患者数の週ごとの推移を調べた。
例年、春先(年初からの第9週=3月上旬以降)
から初夏にかけて、ぜんそく入院患者数は
増加する傾向があるにもかかわらず、
今年はちょうど同時期にあたる、
新型コロナ流行期のぜんそく入院患者数は、
例年に比べ約半減した。この傾向は、
18歳未満の子ども、成人ともに認められた。
新型コロナ流行期にぜんそく入院患者数が
大幅に減少したことについて宮脇助教は、
「ぜんそくに対する薬剤は、吸入ステロイド剤が
一般的になっている。コロナ禍で、
同剤の効能が急激に改善したとは
考えられない。そうするとぜんそく患者が
減ったのは、感染予防行動の波及効果や
患者の服薬コンプライアンス
(薬剤規定どおりに服薬すること)が
向上したことも理由として挙げられる」と
分析している。新型コロナが、患者の
行動変容を引き起こしたと
考えてもいいだろう。
宮脇助教は公衆衛生の研究をする一方、
医師として臨床の現場にもいる。
統計的に見て、季節性インフルエンザは
すでに例年に比べて急減しているが、
宮脇助教は外来診療をする中で、
「明らかに発熱患者が減っている」と
肌で感じている。今回の新型コロナの
流行で国民が感染症を予防するために、
手洗いや手指消毒のほか、
密閉、密集、密接を避けるいわゆる3密を
回避するなどの予防行動を徹底している。
個々人の行動変容が起きている。
大規模診療データベースの研究に
手応えを感じている宮脇助教は、
「新型コロナはある意味、
大規模な社会実験かもしれない」と話す。
今後の課題としてコロナ禍による
診療パターンの変化により、検査数値の
改善度合いといった「アウトカム」に
どのような影響を及ぼしたかを
調べてみたいと意欲的だ。
医療費削減につながるかもしれない
糖尿病患者の血糖値コントロールでは、
定期的な血液検査が一般的だ。
HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)を
測定して、採血前の約1〜2カ月の
平均血糖値をチェック、血糖値が
安定しているかのアウトカムを確認している。
コロナ禍で検査回数が減ったとしても、
そのアウトカムに変化がなければ、
検査の間隔を延ばして検査回数を
減らすことができるかもしれない。
この仮説が立証されれば、例えば、
これまで当たり前にやっていた
1カ月に1回の検査回数を2カ月に
1回に減らせれば、医療費など
患者負担の軽減につながる。
大規模診療データベースに基づいた
研究により、無駄な検査を
減らすことができるかもしれない。
宮脇助教はまた、「コロナ禍以前の、
保育所など密になる場所が子どもの間での
ウイルス性疾患の感染拡大に
つながっていたのならば、大人が
仕事をしやすくなるための代償だったとも
考えられる。社会全体の利益を
考えるうえで、その代償が適切で
あったのかも、このコロナ禍をきっかけに
考え直すきっかけになるかもしれない」と
問題提起をする。現代のライフスタイルの
変化が、社会全体で見ると損失に
なっている側面があるかもしれないというのだ。
「データベースの規模が大きいと、
本当に解析したい集団を絞り込むことが
可能になるため、より解像度の
高い研究結果を実施することができる。
臨床現場の気づきとクエスチョンを
私たちのようなデータサイエンティストや
臨床疫学者が吸い上げ、データを使って
解析することで、新型コロナによって
引き起こされた変化を定量的に理解する
ことができる。そういった定量的な把握は、
いわゆる“医療崩壊”を回避する
取り組みを行っていくうえで非常に有用と考える」
今回の共同研究に参加した1人である
データックの二宮氏は、こう語る。
二宮氏は、データサイエンティストで
ある前に医師でもある。
医師とデータサイエンティストは、
それぞれ使う言語が違うため、
課題抽出の場面などで時間を要することがあるが、
二宮氏はそれぞれの言語を理解できるので、
課題解決までのスピードが短くなる。
国民的な行動変容が起きた
医学・医療界では、因果関係を
突き詰めるのが難しい。
二宮氏は、「コロナ禍で世の中に
どのような変化が起きたかを明確に
するには、データベースの研究は
とても有効だ。今回の研究で認められた
ぜんそく入院患者数の劇的減少は、
個人や社会が生活様式を変えることで
ぜんそくによる入院を防げる可能性が
あることを示唆した。ぜんそくの良好な
コントロールのための予防行動や
生活環境への配慮の重要性が
再認識させられる」と話す。
新型コロナに関する感染者の
増加や経済停滞などの
暗いニュースばかりが続く中で、
今回のデータベース研究は
比較的ポジティブな結果となった。
新型コロナの感染拡大により、
国全体で予防行動が徹底され、
国民的な行動変容が起きたのは確実だ。
その結果、新型コロナ以外の疾患が
抑制されるケースが出てきている。
欧米で新型コロナの感染者が
再び急増するなどして
楽観できない状況だ。
宮脇助教らのチームと二宮氏も
含めた今回の共同研究者たちは、
ぜんそく以外について、
大規模診療データベースを
用いた研究に、すでに着手している。
一連の研究に対して世界中の
医療者・研究者に関心を寄せてもらい、
「研究のための研究」ではなく、
「世の中のためになる研究」が
進展することを強く望んでいる。
新型コロナによる医療崩壊
について二宮氏は、医療機関に
新型コロナ患者があふれる事態と、
感染を恐れて受診控えが起きて
ほかの病気の患者の医療が
先延ばしされる事態が同時に
起こることを“二重の医療崩壊”だと
定義している。現在進行中の
ほかの診療データベース研究が、
“二重の医療崩壊”を回避する
ヒントになると期待している。
コメントです
コロナパンデミックが
医療制度でプラスの要素を
もたらす可能性があることを
視差しています。
ナイル川の氾濫が、
肥沃な土壌と測量技術の
発達に貢献したような
ものでしょうか。
こちらの記事、
#マスク不要論派
#コロナでっち上げ派
#コロナ現実逃避派
読んで頭を冷やして
もらいたいものです。