


バルカン半島北部のセルビア・クロアチア国境、ドナウ川の
中州を領土とする国家づくりが進行している。
「リベルランド自由共和国」。個人の自由を尊重し、独自の
仮想通貨を構想。市民権申請者は約15万人に上る。
(アパティン〈セルビア〉=吉武祐)
セルビア北部アパティンのマリーナから、ボートで30分ほど
ドナウ川をさかのぼると、草木が生い茂った無人の中州に着く。
2015年4月13日、ビト・イェドリチカ氏(34)が旗を立て、
「建国」を宣言した。
チェコの「自由市民党」の地方支部代表だったイェドリチカ氏は
3年前、グーグルマップを眺め、自身の国家観を実践する場を
探していた。「既存の国家を直すより、新しくつくる方が
やりやすい」。アフリカなどにも候補地はあったが、チェコと
文化が似ていて訪れやすいこの地を選んだ。
ドナウ川の中間が境界だとするセルビアと、
オーストリア・ハンガリー帝国時代の境界を採用したい
クロアチアのどちらも領有を主張していない場所だった。
国際法上の無主地に当たり、建国できると考えた。
自由を基本とする国家理念に賛同し、犯罪歴がなければ、
誰でも市民権を申請できる。ウェブサイトへの登録は約50万人、
有効な市民権申請は約15万人に上る。
ただ、今は拡大を急がない。市民になる人は5千ドルを
納めるか、労働や専門知識を提供する。
■クロアチアは警戒
どの国からも国家承認されていないが、欧州でメディアに
取り上げられるなどして支持が広がり、各分野の専門家が
国家構想を練るようになった。イェドリチカ氏を大統領として
外相、財務相、内務相を置き、法律と経済の助言チームがある。
今年4月13日にセルビアのノビサドで開いた
建国3周年パーティーには、クロアチア野党党首の
イバン・ペルナル氏(32)が参加。
「進歩的で、利益を生むアイデアだから支持する」と語った。
16年米大統領選に立候補したゲーリー・ジョンソン
元ニューメキシコ州知事や、複数の欧州議会議員の
支持も得たという。
セルビア側は、建国記念日などに訪れる人が増え、ボートで
中州へ向かう起点のアパティンやその周辺が潤う。
アパティンの町長や旅行業者が支援する。
だがクロアチア側は警戒し、中州への上陸を阻んでいる。
国境が未確定との認識は示しつつ、無主地とは認めず、
立ち入ろうとした「市民」を警察が逮捕している。
かつては立ち入ることができたが、河岸でパーティーを
して騒ぐ人がいたことがきっかけとみられる。
記者がボートで中州に近づいた際も、クロアチア警察の
巡視艇が見ていて、上陸できなかった。
■政府の役割を否定
リベルランドの名は英語の「liberate
(自由にさせる)」に由来する。
イェドリチカ氏らは「個人にとって限りなく自由な国」を
追求する。米国などで力を持つリバタリアニズム
(自由至上主義)の思想だ。個人の権利と責任を重んじ、
政府の役割を基本的に否定、規制のない経済をめざす。
4月13日の建国記念日は、米独立宣言の起草で知られる
トマス・ジェファーソンの誕生日だ。
IT起業を奨励し、タックスヘイブン(租税回避地)として
国際企業を呼び込み、実際に住む数万人とネットを通じて
関わる数十万人がITや貿易で繁栄する。
そんな将来像を思い描いている。
イェドリチカ氏は今、国家の土台となる仕組みづくりで
1億ドル(約110億円)の初期投資を集めている。
独自の仮想通貨「メリット」を創設して運用する構想があり、
仮想通貨の根幹であるブロックチェーン技術を電子的な
国家運営に採り入れる方針という。
税金は基本的にない。市民は自発的に出資金を納めて
仮想通貨メリットを得る。選挙は一人1票ではなく、
メリットの保有額に比例した票数を持つ仕組みとする。
司法は、市民から選んだ陪審員がネットで証拠を集め、
素早く判決を下す。こうした制度の基礎となる憲法と
基本法の草案を公開している。
■「いかなる同盟も組まない」
「大統領」のイェドリチカ氏に聞く
――新しい国のアイデアの特長は何ですか。
「イスラエルは敵対する人たちがいる地域に建国した
けれど、我々は多くの人に歓迎されている。
もともと住んでいた人もいない」
――国連や欧州連合(EU)に加盟する考えは。
「外交政策はジェファーソンの考えが柱だ。すべての国と
友好関係を持ち、貿易をするが、いかなる同盟も組まない。
国連加盟が我々の利益になるとは思わない。
EUには膨大な規制があり、自由な国をつくる我々の考えと正反対だ」
――仮想通貨を推進する道具とみる人もいます。
「それは構わない。仮想通貨業界がリベルランドを発展させ、
我々も仮想通貨を発展させる。(ブロックチェーン技術で)
公正性、透明性を提供できる点で、仮想通貨は既存の
どの通貨より優れている」
――リベルランドが大きくなり、あなた自身の手に負えなくなりませんか。
「宣伝しなくても2分に1件、ウェブサイトへ登録があるが
成長を急ごうとは思っていない。同じ考えを持ち、一緒に
やれる人を見つけることが重要だ」
――大統領の役割は。
「将来は大統領を廃し、仮想通貨メリットを持つ人々に
よる権力分散型の自治行政府に移行したい。政治というよりは経営になる」
■リベルランド自由共和国
◆国家形態:「直接民主制の要素を持つ立憲共和国」
◆面積:7平方キロ
◆市民権付与:約600人
◆核となる協力者:約120人
◆有効な市民権申請:約15万人(日本から276人)
◆公用語:英語
◆標語「To live and let live」
(自分の思うように生き、他人も同じように自由に生きてもらう)
(市民権関連の数値は今年4月現在)
コメントです。
20年ほど前でしょうか。
自衛隊員である原子力潜水艦の艦長が
任務中に独立国家を宣言するアニメが
ありましたが、今回の記事の元首は
案外このアニメを見て育った世代
だったりするのかもしれません。
現在、なにかと話題の仮想通貨ですが、
今一度、「統治国家」という言葉を
学習し直したほうがいいかもしれませんね。
今回の記事もですが、やっていることは
小学生が好き勝手に「言ったもん勝ち」程度の
印象があります。