84人が犠牲になったテロから21日で1週間。事件は、
地中海に臨むリゾート地の二つの顔を浮かび上がらせた。
富裕層が住み、世界中から観光客が集う南部と移民らが
多く貧しい北部。テロの恐怖がさらなる分断を招きかねない。
現場となったビーチ沿いのニース南部の大通り
「プロムナード・デ・ザングレ」は、華やかなニースの象徴だ。
高級ホテルが軒を連ね、まぶしい日差しとテラスでの食事。
水着姿の人が行き交う。観光客らがそぞろ歩きする姿も
少しずつ戻りつつある。
だが、車で15分ほど北に向かうと雰囲気が一変する。
簡素な団地に洗濯物が無造作に垂れ下がる。
地べたに座り込んで所在なげな人たちの姿が目立つ。
チュニジア人のモアメド・ラウエジュ・ブレル容疑者(31)は、
北部に住んでいた。イスラム過激派の思想に染まり、
シリアなどに渡る若者も少なくないと指摘されてきた地域だ。
ニースの約8割のモスク(イスラム礼拝所)を束ねる組織の
オトマヌ・アイサウイ代表(46)は「過激化するのはモスクに
寄りつかない若者。インターネットを通じて過激派に接している」。
限られた人間関係に身を置き、過激な思想に染まるケースが
多いという。追悼に訪れたバルス首相に18日、罵声が
浴びせられる場面があった。ソフィ・シャティさん(45)は
怒りをあらわに「彼は力強い演説をしなかった」。
追悼の場がテロを防げなかったオランド社会党政権への
批判の場になった。
ニースは、退職後に移り住む高齢世代も多く、保守層が強い。
足踏みする仏経済、高止まりする失業率などを背景に不満が
募る。イスラム過激派と移民・難民とがいっしょくたになって
攻撃対象にされかねない。
急先鋒(きゅうせんぽう)は、マリーヌ・ルペン党首が率いる
右翼・国民戦線(FN)。移民規制の強化を訴えるFNは
2015年末の地域圏議会の選挙で、ニースでは34%の
得票(第1回投票)で2位につけるなど支持を広げる。
厳しい風当たりに、北部の人たちの不安は高まる。
配送業を営むモロッコ移民のラッサンさん(34)は
「問題の核心は社会の不平等と差別だ。
多くの人はビーチ以外のニースを知らないが、北部では
若者は職にもつけない」と憤る。
北部の別の街で小さなスーパーを営むモアメドさん(40)は、
シリア行きの話をしている若い客がいると明かしつつ、話した。
「職や家族を持つために努力することが本当の聖戦だと、
彼らに気付いて欲しい」(ニース=福山亜希)
■容疑者、何度も下見
ブレル容疑者は14日夜、大型トラックでジグザグ運転を
しながら加速や減速を繰り返し、花火の見物客らをはねながら、
約2キロを暴走。警察官との銃撃戦で射殺された。
仏検察の捜査では、11日にトラックを借り、犯行直前まで
現場を何度も下見していたことが監視カメラの映像などでわかった。
押収されたパソコンには、7月以降ニースでのイベントの
開催予定や昨年のパリの同時テロなどの詳細を調べたり、
過激派組織「イスラム国」(IS)の宣伝ページを繰り返し
閲覧したりした記録が残っており、「短期間で急速に過激化した」
(カズヌーブ内相)とされる。ISが16日、犯行声明を出したが、
つながりは確認されていない。(パリ=高久潤)