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2016年07月13日

(離脱の衝撃)英の教訓・EUの未来、米仏独の識者に聞く

2016年7月12日

 英国の国論を二分した末に、欧州連合(EU)からの離脱を
決めた国民投票。政党が世論を束ねられず、ポピュリズムが
分断をあおる現状は英国に限らない。今回の国民投票が
浮かび上がらせた教訓とは。そして英国無きEUは
今後どのような道を進むべきなのか――。米仏独の識者に聞いた。


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 ■投票の議題、複雑すぎた 米ジョージタウン大学教授、
キャサリン・マクナマラ氏

英国の国民投票は、ご都合主義の政治家たちによって、
残念なものになった。

キャメロン首相は恐ろしい間違いをし、大惨事となりうる事態を
もたらした。賢明な人がいれば「国民投票は制御が
難しい」と忠告しただろう。

今回の国民投票は民主的な議論ができる可能性も
あったのに、そうはならなかった。EUにおける統合や
発展について誠実な議論を深める機会を政治家たちは
利用できなかった。

国民投票は、的を絞った限定的で単純な設問の場合に
はうまくいく。例えば「大麻を合法化すべきか」などだ。

もちろん、あらゆる公共政策に関する質問はある程度の
複雑さがある。しかし、EUの加盟の是非を問うというのは、
並外れた複雑さを持っている。私は20年もEUの研究を
しているが、必ずしも理解できていない。学生たちにも
そう伝えている。それほど複雑な組織なのだ。

英国の有権者もEUが何なのかきちんと分かっていなかったと
思う。離脱派のキャンペーンの中には明らかなうそや
誇張もあった。移民についてひどい扱いをするポスターもあった。

現代社会は、泡のように階層や文化などによってそれぞれに
分かれている。お互いに同意できる人としか話さない傾向が
ある。それが、人々がうそを信じ、実際に起きていることを
熟慮しない状況を作っているのだと推測する。

国民投票での投票は、投票日の数日前に起きたことにも
左右される。有権者が感情的に投票する傾向にあるという
指摘もある。EU離脱のような複雑な問題には、有権者が
選ぶ代表者が吟味する方が、公共のためには断然よい。

米国の大統領選でも、共和党候補となるドナルド・トランプ氏が
今回の離脱決定を利用しようとしている。離脱派の勝利と
トランプ現象には共通点もある。

広がる格差や多文化主義などで、社会から取り残されている
気がしている人たちがいる。未来に不安を抱き、疎外感や
怒りを感じる人たちが離脱派を支えた。年配の人たちが
多いのも特徴的だ。米国でも、同様の怒りを覚える、
特に年配の白人がトランプ氏を支持している。

ただ、離脱決定がトランプ氏への追い風となるわけでは
ないだろう。トランプ氏の支持者は米国外に興味はなく、
実際、内向きだからだ。

 (聞き手・杉山正)

     *


 1962年生まれ。コロンビア大学で政治学の博士号を取得。
EUの発展論が専門。著書に「日々の欧州の政治学」などがある。




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 ■加盟国間で歩みに差を パリ政治学院教授、
クリスチャン・ルケンヌ氏

EUは、東南アジア諸国連合(ASEAN)や南米南部
共同市場(メルコスル)の手本だった。地域統合の成功
モデルとして世界に影響力を発揮してきた。

だが「ひとつの欧州」は失われた。パワーバランスは変わるだろう。

中国にとってはどうか。貿易などの交渉相手にとどまらず、
国連などで米国と向き合う力としても「ひとつの欧州」が望ましい。

ロシアはどうか。プーチン大統領は喜んでいるだろう。
ウクライナなどがロシアのコントロールを離れ、EUへの接近を
指向する中、「西洋」の失敗を望んできたのだから。

EUは今、28カ国にまで膨らんだが、紡いだ物語は異なっていた。

出発点は第2次世界大戦後の和解と平和の希求、復興だった。
だが1970年代に加盟した英国やデンマークは単一市場に
関心を寄せた。とりわけ英国にとって、
EUは市場でしかなかった。

また冷戦の崩壊後に加わった旧共産圏、東欧の国々に
とっては「民主主義と人権の回復」が目的だった。EUの
存在理由は、それぞれの国でばらばらだった。

冷戦後のEUの拡大期は経済のグローバル化の進展期と
重なった。(EUを担う)エリート層はそれに対応できたが、
一方で「自分たちは負け組だ」と感じる人が生まれた。
それが反エリートやポピュリズムの流れになった。
米国のトランプ現象にもあてはまる。

英国の離脱は避けられなかったのかもしれない。それでも
「EUモデルの失敗」だとは思わない。改革を進め、将来を
考えるべきだという意識を親EU派に呼び覚ました効果もある。

英国という「ややこしいやつ」が去った後、EUがとりうる
現実的な道は、加盟国間で歩みに差をつける
「ツー・スピード」しかない。

より深い政治や安全保障の統合を求める「中核国」と、
市場統合の現状にとどまる国に分かれて進むことだ。
深化を望む国々の首脳会議などの組織を、設立するのが
よいのではないか。

ただ、統合のエンジンたる独仏両国には財政規律などで
立場の違いが目立つ。妥協点を見つけるのは容易ではない。
EU懐疑派の「ドイツのための選択肢」(AfD)や
仏右翼・国民戦線(FN)が存在し、17年にはそれぞれ
総選挙や大統領選がある。EUの再興には、
しばらく時間がかかるだろう。

 (聞き手・青田秀樹)

     *

 1962年生まれ。仏ストラスブールの政治学院などで
学び、97年から現職。EUや、その加盟国の外交政策に詳しい。





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 ■「欧州共和国」めざす時 独シンクタンク所長、
ウルリケ・ゲロ氏

冷戦後の世界は、米同時多発テロやユーロ危機、
アラブの春など世界秩序を揺るがすできごとを
経験してきた。英国のEU離脱もそれに匹敵する事態だ。

複雑な要因が絡み合った出来事ではあるが、
根底にあるのは失業問題だ。職を失った人々の
不安や不満が増幅され、社会システムを壊すほどの
衝撃となった。

ユーロ危機が引き金だ。ユーロ圏に属していない英国も、
影響は避けられなかった。そこに中東などからの
難民問題が起き、ポピュリストが国民の不安をあおった。
不満の矛先は英政権だけでなく、EUに向けられた。
いわば、スケープゴート(身代わり)だった。

かつてノーベル平和賞を得たEUの威信は、大いに
傷つけられた。影響は、民主主義の理念はもとより、
気候変動や女性の地位向上など欧州が世界を
主導してきた課題にまで及ぶ。そこに米国の
トランプ現象に通じるナショナリズムやポピュリズムが
つけ込み、人々の不安をあおっている。

国民投票のリスクも浮かび上がった。英国の国民投票では
数ポイントの差が勝敗を決した。政権への不満だけで
投票した英国民も少なからずいたはずなのに。

「EUのシステムは民意を反映していない」という離脱派の
主張は、正しい。だが国民投票は正しい解決手段では
なかった。EU離脱ではなく、国家の枠を超えた成熟した
民主主義とは何かを問うべきだった。

民主主義の歴史は浅くない。だが、その枠組みはいまだ
国家の域を出ない。今のEUのシステムでは、母国の
議会を選ぶために投票し、税金も国ごとに違う。

今こそ「欧州共和国」をめざす時だ。全ての人々は法の下に
平等でなくてはならない。投票権や納税、社会福祉への
アクセスなど全てにおいてだ。

EUはどうすればいいのか。まず域内の市民が政治的に
平等に扱われる仕組みの青写真と工程表を示し、
例えば「今後30年で実行する」と宣言するべきだ。

そこで欧州最大の経済大国ドイツはどう振る舞うべきか。
英国の離脱で、EU内でドイツの力が突出する。
他の加盟国は独主導のEUに厳しい目を向ける。

EU再建のためには、摩擦はなるべく避けたい。
来秋のドイツ総選挙の前に、メルケル政権は
「ドイツのための欧州」というイメージを払拭(ふっしょく)し、
「欧州のためのドイツ」という立場を明確に打ち出すべきだ。

 (聞き手・玉川透)

     *

1964年生まれ。ベルリンのシンクタンク
「ヨーロピアン・デモクラシー・ラボ」所長。
欧米で欧州の民主主義を研究する。



◆キーワード

 <英国のEU離脱の是非を問う国民投票> 
6月23日に投票があり、離脱支持(51.9%)が、
残留支持(48.1%)を小差で上回った。投票率は
72.2%。28カ国が加盟するEUから脱退する
初のケースとなる。
残留を訴えていたキャメロン首相は辞意を表明した。

移民規制や主権回復を訴えた離脱派の政治家が
投票後に次々と前言を撤回。残留支持が多い若年層を中心に、
投票の再実施を求める請願への署名が400万件を超えた。
しかし政府は再実施の拒否を表明した。



posted by salsaseoul at 06:41| Comment(0) | TrackBack(0) | 英国
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