セレブライト社が公開している動画から
FBIとアップルが対立していた問題。
この騒動で注目を集めているのが、スマホ端末の
内部データを捜査する「モバイルフォレンジック」と呼ばれる
技術です。この分野で世界最先端をゆく日本企業の
サン電子(本社・愛知県江南市)に、驚きの技術を
見せてもらいました。
■スマホの情報、丸見えに
秋葉原の高層ビルに、サン電子東京事業所はあります。
犯罪現場に捜査員が持ち込みやすいよう、肩掛け式にな現れました。その脇には小ぶりのノートパソコンのような
機器がしまわれています。
サン電子傘下のセレブライト社が販売している、スマホを
対象にした捜査機器。米・日など世界100カ国以上の
捜査機関に納入され、海外紙の報道によればFBIとも
契約を結んでいます。その最上位機種の
「UFED TOUCH ULTIMATE」です。
サン電子の纐纈(こうけつ)正典・モバイルソリューション
事業部長は「独自技術の固まり」と説明します。
本体が流出しないよう、大企業を含め民間には
一切販売していません。
纐纈部長が、自分のiPhone6 plusをUSBケーブルで
接続しました。
画面を指で押して携帯の機種やデータの抽出方法を
指定すると、どのデータを取り出すか選べる画面が
表示されました。電話帳、電子メール、通話履歴、
webデータ……ありとあらゆる14種類の中から
選ぶことができます。
■削除データも、ほぼ100%復元
試しに電話帳データを取り出すと、1分で終了。
さらに事前に取り出した、iPhone内部の
全てのデータも見せてもらいました。
纐纈部長が「この数字、何だと思いますか」と、
通話履歴の抽出結果を指さします。取り出し件数が
「382(52)」と表示されています。
「カッコ内の数字は、復元に成功した、削除済み
データの数なんです」
確かに、iPhone上で削除したはずの52件もの
通話履歴が、かけた日時や相手先の番号まで一覧
表示されています。復元された数十通のメールは、
文面や送受信日も分かりました。
纐纈部長は「削除されたデータでも、ほぼ100%
回復できます。所有者がいつ、どこで、誰と、何を
したか詳細に分析できます」。
「あなたのiPhoneでも試してみますか」。
そう尋ねられたとき、私はすでに「いいですよ」と
即答できなくなっていました。
■ロック解除は「機種次第」
ただ、米のテロ事件を巡り、FBIがアップルに対して
求めたのは、iPhoneのロック解除でした。
たしかに、削除データを復元する技術があっても、
iPhoneがパスワードでロックされて手出し
できないのであれば、捜査ができません。
UFEDの場合は、どうなのでしょうか。
サン電子は、機密性の高い技術のため
「詳しくは明らかにできない」といいます。
ただ、「iPhone4やiOS5などの古いスマホなら、
問題なくロック解除できる。新しいものは、スマホの
機種とiOSのバージョンの組み合わせによって、
可能なものと不可能なものがある」といいます。
iPhoneには、パスワード入力を10回間違えると
内部のデータをすべて消去する機能もありますが、
これも「機種とiOSの組み合わせによっては回避できる」
技術があるといいます。
■パリのテロ捜査でも貢献
サン電子が、こうした高い技術を身につけたのは、
2007年にイスラエルのセレブライト社を
買収したのがきっかけでした。
セレブライト社は、携帯ショップ向けのデータコピー機を
開発していましたが、サン電子の傘下入り後、
犯罪捜査向けの技術を飛躍的に高めました。
現在もセレブライト社が開発・販売を担い、世界で
使われる携帯の9割以上にあたる1万7千機種に
対応しています。
UFEDは、世界各地の犯罪やテロ捜査で実績を
上げています。
2015年11月に起きたパリの同時多発テロ事件では、
テロ組織が使っていたスマホ向けチャットアプリの
解析に成功。組織内のやりとりを明らかにしました。
日本でも、殺人事件などの犯罪捜査に使用されて
います。容疑者のスマホから消去されたデータを
復元し、被害者との接点を分析するなど、多方面で
活用されています。
サン電子は「今や、世界の人口以上の数のスマホが
使われている。スマホ内のデータが活用できれば、
格段に速く犯罪の証拠を集めることができる」といいます。
FBIとアップルの争いは、FBIが「第三者の協力」を得て、
iPhoneロック解除に成功したことで決着を見ました。
この「第三者」が何者なのかは、明らかになっていません。
サン電子も「特定の刑事事件には、コメントできない」
としています。ただ、スマホへの捜査技術が、日本企業の
傘下で進化を続けている。そのことは間違いなさそうです。
(信原一貴)
関連記事です。
サン電子の子会社、インターポールとパートナー契約
iPhone(アイフォーン)のロック解除をめぐって米連邦捜査局
(FBI)に協力したとされるサン電子(愛知県江南市)の子会社が
、国際刑事警察機構(ICPO、仏リヨン)とパートナーシップ
契約を結んだ。スマートフォンなどの携帯端末からデータを
抽出し、分析するノウハウを提供する。
サン電子が13日に発表した。イスラエルにある子会社の
セレブライト社が、データの抽出や分析ができる機器を、
ICPOのサイバー犯罪捜査の研究開発拠点に納めたり、
データの分析方法を教える講師を派遣したりする。
世界各国の警察から集まる捜査員のトレーニングに
生かしてもらう。
テロ容疑者が使っていたiPhoneのロック解除をめぐっては、
協力を求めたFBIと拒む米アップル社が対立。
FBIによるロック解除にセレブライト社が協力した、と
報道された。
子会社がロック解除に協力したかどうかについて
サン電子は明言しない一方、機器をFBIに納めたことは
認めている。日米を含む約100カ国の捜査機関などに
3万台以上の納入実績がある、という。
サン電子の2015年3月期の連結売上高は273億円。
ジャスダックに上場している。株価の13日の終値は
1049円で、ロック解除にかかわる報道があった
3月23日の終値より約4割高い。(高橋諒子)
使っていたiPhone(アイフォーン)をめぐり、データのロック
機能解除を求める米連邦捜査局(FBI)と米アップル社との
思わぬ展開で幕を閉じた。
ロックが破られるとは、どういうことなのか?
「見たらぞっとしますよ」
FBIのロック解除に協力したとされるイスラエルの
IT企業「セレブライト社」。その親会社で日本の通信機器
大手「サン電子」(愛知県)の事務所を訪ねると、担当者が
自身のiPhoneに広辞苑ほどの大きさの「ある機器」を
つないでロックを解除し、取り出したデータをパソコン画面で
見せてくれた。電話やメールの発信・着信履歴や電話番号、
SNSのやりとり、カメラ画像の撮影場所、閲覧したサイトの
アドレスなどが時系列に表示されていた。
項目の脇に「×」がついているのは、消去したデータを
復元したものという。画面のメニューを二つ三つ、タッチする
だけで簡単に取り出すことができた。
「現代人はスマホを手放せない。データをたどれば、その人の
生活スタイルがわかる」。見てはいけないものを
見てしまった気がした。
■犯罪捜査用に開発
この機器は犯罪捜査用に開発され、1万機種を超える
携帯電話やスマホのデータが取り出せるという。日本を
含め世界の捜査機関に納入されており1台100万円前後。
昨年11月のパリ同時多発テロ事件で容疑者のスマホ
解析にも使われたという。
iPhoneのロック解除問題は昨年12月、14人が殺害された
米カリフォルニア州のテロ事件をめぐり、FBIが容疑者の
iPhoneに残るデータを分析するためにロック解除の
ソフトを作るようアップルに要請したが、「顧客のデータと
プライバシーを守る責務がある」などと拒否された。
実際、今回の機器でデータが取り出されたのか。
サン電子の担当者は、肯定も否定もしなかった。
パソコンのデータ解析を手がけるセキュリティー会社
「ネットエージェント」(東京)の杉浦隆幸会長は
「こうした専用機器があればできるのではないか。
FBIも機器の存在を知っているはずだ」と語る。
だがFBIは、セレブライト社の協力でデータを取り出した後も、
アップルに対し協力を求め続けている。杉浦会長は
「データやプライバシー保護機能は犯罪やテロ捜査の
妨げになる。以前からくすぶっていた問題を世論に
訴える狙いがあったのではないか」と推し量る。
■「保護」さらに強化も
事件の訴訟資料を分析したネット接続事業最大手
「IIJ」(東京)のセキュリティー専門家、根岸征史さんは、
FBIが要求を続ける理由に、「iPhone5s」以降は
ロック解除ができない点を挙げる。今回の問題を
機にアップルが保護機能をさらに強化するとも見ている。
根岸さんによると、アップルにとってFBIの要求は、
iPhoneに、 関係者だけがデータを取り出せる
「裏口」を設ける意味を持つという。
「こうした要求が今後、アップル以外の企業へ
向けられるかも知れない。アップルと FBIの対立だけでなく、
受け入れればネットの秩序を壊し、社会の根幹を
揺るがす問題になりかねない」(須藤龍也、佐藤恵子)
コメントです
あくまでも個人的感想ですが、
最近は個人情報保護などの新法、または
プライバシーの尊重などを旗手に、
個人の権利が強すぎる気がします。
なので、このように犯罪捜査に非協力的な
通信会社対策として、ロック解除専門の会社が
実力をつけることには賛成です。