巡り、両国の主張は対立し、国境地帯の緊迫は高まっている。
欧米などは、双方に自制を呼びかける以外に打つ手がない。
パリ同時多発テロ以降、各国協調の兆しが生まれたかに見えた
過激派組織「イスラム国」(IS)掃討の包囲網は、ほころびつつある。
■ミサイル配備表明/「あらゆる措置」言及
「事件が繰り返される可能性は排除されない」
25日、ロシアのプーチン大統領はこう語り、シリア領内で
空爆しているロシア軍機の安全確保策を進める考えを表明した。
ショイグ国防相は、ロシア空軍が拠点とするシリア北部
ラタキア近郊の基地に最新鋭の地対空ミサイルシステム
S400を配備する方針を明らかにした。ロシア軍は24日、
トルコ軍との連絡を断つ方針を発表。緊張が高まっている。
トルコのチャブシュオール外相は25日、ロシアのラブロフ外相に
電話した。ロシア側の発表によると、ラブロフ氏は撃墜された
ロシア機は領空侵犯していなかったと改めて強調。
さらに「トルコ政府は事実上ISの側に立った」
「(撃墜は)事前に準備された計画的なものだった」とトルコ側を
強く批判した。
今回の撃墜では、搭乗していた2人のうち1人が死亡。
行方不明になっていたもう1人は25日、生存が確認された。
ロシアメディアに対して「攻撃 前、無線による警告も目に
見える形での警告も一切無かった」と述べ、
「侵犯前の5分間に10回警告した」というトルコ側の主張を否定した。
一方トルコ側は「問題を拡大させる意図は持っていない」
(エルドアン大統領)としながらも、今後も国境侵犯に対し
「あらゆる措置をとる」としている。
■シリア巡る溝、あらわに
プーチン大統領は、トルコでの主要20カ国・地域(G20)
首脳会議を前にした13日には、トルコを手放しで評価していた。
「トルコの姿勢は、両国関係に新しい地平を開く」。
米国主導の北大西洋条約機構(NATO)の一員ながら、
ウクライナ問題でロシアに制裁を科さなかったためだ。
欧米からの制裁を受けたロシアは、トルコとの関係強化に
前のめりだった。
ロシアから東欧に天然ガスを輸出する新パイプライン計画
「サウス・ストリーム」が欧州連合(EU)の反対で頓挫したため、
トルコ経由の「トルコ・ストリーム」計画をトルコと共に打ち出した。
トルコから見ても、ロシアはドイツに次ぐ第2の貿易相手国だ。
トルコ初の原発の建設をロシア企業が進めるなど、
大規模プロジェクトでの協力も進む。
だがシリアのアサド政権を巡る隔たりは大きい。
シリア内戦で、トルコはアサド退陣を最優先して反体制派を
支援。一方のロシアは「後ろ盾」としてアサド政権を支え、
「IS対策」名目の空爆は、反体制派も標的とする。
エルドアン大統領が「親戚」と呼ぶシリア北部のトルクメン人は
反体制派の一角だ。11月に入り、アサド政権軍との戦闘が
激化した。ロシア軍がトルクメン人武装勢力を空爆したことに、
トルコはいらだっていた。
ロシア軍機の撃墜は、水面下に隠れていた両国の対立に
火を付けた。
歴史的にロシアとトルコは、19世紀のクリミア戦争や
第1次世界大戦など、幾度も戦火を交えてきた。
プーチン、エルドアンという強い指導者に率いられた両国の対立。
さらなる衝突の危険さえはらんでいる。
(モスクワ=駒木明義、イスタンブール=春日芳晃)
■米ロ共闘の機運しぼむ
24日昼(日本時間25日朝)、米ホワイトハウス。
オバマ米大統領とオランド仏大統領が記者会見に臨むと、
ロシア軍機撃墜に関する質問が相次いだ。
オバマ氏が「あらゆる紛争激化を制止することが重要だ」と
説くと、オランド氏も「事態が悪化すれば傷は非常に大きい」と
同意した。
米仏両国はトルコと共に、NATOの一員だ。先鋭化した
ロシアとトルコの対立が万が一、軍事衝突に発展すれば、
軍事同盟であるNATOはロシアへの対応を迫られ、
対ISで共同戦線を築くなど論外となる。IS空爆で、米軍は
シリア国境に近いトルコのインジルリク空軍基地を使用しており、
実際の作戦面でも悪影響が出かねない。
そこで米仏首脳は、一般論としてトルコの自衛権は認めつつ、
名指しのロシア非難は避けた。
米国は、ロシアのシリア介入の真意は、IS掃討の名目を借りて
反政府勢力をたたき、アサド政権を支援することだとみてきた。
だが、エジプトでのロシア民間機墜落やパリ同時多発テロを
契機に「プーチン大統領もIS掃討の重要性を理解した」
(米政府高官)と感じ取った。
だが、ロシア軍機撃墜により、対ISでロシアと共闘する
機運はしぼみつつある。望みをつなげたいオバマ氏は
会見で、米仏の共通見解として「ロシアは空爆の標的を
ISに移せば、建設的役割を果たせる」と強調。
同時にアサド政権支持をやめるよう求めた。
ロシアとトルコの対立を懸念するのは、米仏など有志連合
だけではない。イランのロハニ大統領は25日、「テロとの戦いには
国際協調が必要だ。両国の紛争はテロリストの利益となり、
(中東)地域に悪影響を及ぼす」と述べ、自制を呼びかけた。
(ワシントン=梅原季哉、峯村健司、テヘラン=神田大介)
◆キーワード
<トルクメン人> 中央アジアに住むトルコ系民族の総称。
シリアのトルクメン人については正式な統計はないが、
10万人前後とする推計が多い。トルコ人と同じ民族で、
ほぼ同じ言語を使うことから、トルコは「同胞」として
シリア内戦勃発後、支援を続けている。
歴史上、トルコの立ち位置としてよく知られているのが
[東西文化の融合]です。
それが、今日の記事にあるように、イスラム圏と西洋のはざ間で
わざわざモザイク状態を作らなくてもいいのに、事態はどんどん
複雑化していっています。
一見、外交上手なトルコですが、やはり、民族的に血が騒ぐものが
あり、そして、最後には西洋諸国とはやっていけないという
ところでしょうか