西部のモランベーク地区。ベルギー捜査当局が大規模な捜索を行った。
移民国家ベルギーを象徴する街に17日、記者が入った。
テロに関与したとされるサラ・アブデスラム容疑者(26)
=指名手配中=は、同地区の中心部から約1キロ離れた
閑静な通りに住んでいたとみられる。捜査当局の大規模な
捜索から一夜明けた17日、3階建てアパートの玄関は
当局にこじ開けられ、窓ガラスが割られていた。
住民の男性は「実行犯の男なんて知らない。警察はみな壊して
いったが、何も見つけられなかった」と話した。
同地区では、1月にベルギーで警察署などを狙った
大規模テロ計画が発覚して以降、
捜査当局がたびたび捜索しており、住民には不満が募る。
アルジェリア系移民の販売員アリ・タヘさん(33)は
「若者をイスラム過激派に向かわせているのは政治だ。
学校に行けず、職もなく、希望をなくしてシリアに行く
しかなくなった気持ちは分かる」と訴えた。
イスラム系移民が多く住む同地区は、レストランや商店の
看板は仏語とアラビア語が併記され、イスラム教徒のスカーフを
かぶった女性が目につく。1960年代後半から中東やアフリカの
移民たちを労働力として迎え入れてきた。
現在、地区に住む約9万5千人の8割が移民系とされ、
国籍は約100に上る。移民国家ベルギーの象徴的な街だ。
だが、若者の失業率は4割以上。満足な教育も受けられない。
欧米メディアによると、2004年のスペイン列車爆破テロの
首謀者や今年8月にパリ行き国際特急で取り押さえられた
武装犯も住んでいたという。
ミシェル首相は15日、地元テレビで「(テロを)未然に防ぐための
様々な手は打ってきたが、不十分だった」と認めた。
(ブリュッセル=吉田美智子、玉川透)
■<考論>移民への偏見、過激行動の一因
ダニエラ・クリムケ独ハンブルク大学教授(国際テロ・犯罪学)
パリの同時多発テロは1月の仏週刊新聞社襲撃に比べて
脅威の拡散という点でも桁違いだった。
欧州の難民政策も大きな影響を受けるだろう。
すでにポーランドが欧州連合(EU)の難民受け入れ
分担に反対するなど波紋が広がっている。
シリアなどから流入する難民の中に、過激派組織
「イスラム国」(IS)の息のかかった者が紛れ込んでいないか、
警戒する必要はある。しかし、問題の本質は欧州諸国が
長い間、移民らの社会統合に力を注いでこなかったことにある。
フランスはドイツと並ぶ移民大国だが、社会統合策が
成功しているとはいえない。
むしろ社会の偏見は強まっている。
移民らの大半は経済社会の中心にはなれず、常に不満を
抱えている。これが彼らの孤立化を助長し、過激な行動に
走らせる一因ともなっている。
移民の側も西洋社会がイスラム社会を敵視していると
主張する代わりに、溶け込めない理由を受け入れ先の
人々に根気強く訴えていかなければならない。
イスラム過激派とイスラム教は、区別して考えなくては
ならない。だが、テロの脅威にあおられて感情論に傾けば、
その重要な区別は容易にできなくなってしまうかもしれない。
二つを結びつけて外国人排斥を訴えてきた右翼勢力などに
とって、今回のテロは願ってもない機会になってしまう。
(聞き手・玉川透)
■ベルギーと関連のあるテロ
2003年5月 モロッコ・カサブランカのベルギー
領事館周辺などで連続爆破テロ
04年3月 スペイン・マドリードの駅で同時爆破テロ。
首謀者がベルギー在住との情報
05年 イスラム教に改宗したベルギー人女性が
イラクで自爆テロ
10年9月 デンマーク・コペンハーゲンで、ベルギー国籍の
チェチェン人がテロ未遂
15年1月 仏週刊新聞「シャルリー・エブド」などで連続テロ。
容疑者の1人がブリュッセルで武器を購入か
8月 オランダ・アムステルダム発パリ行きの国際特急で
テロを企てた男を米軍人が取り押さえた。
男はブリュッセルで乗車
11月 パリで同時多発テロ。容疑者3人がベルギーに在住歴
パリ同時多発テロ関連の記事です。