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2015年07月29日

(日曜に想う)肥満のトカゲ、垂れたカキ 特別編集委員・山中季広

朝日新聞 2015年7月26日

「白紙撤回にどう臨む」「再コンペに挑む気は」。
新国立競技場問題で局面が動くたび、ロンドンのザハ・ハディド
建築事務所に問い合わせをした。

返事らしい返事はもらえなかった。代わりに別の建築家から、
ハディド事務所幹部がフェイスブックに投じた謎の一文を教えられた。
「槇と伊東はこの件で記憶されるだろう」

捨てゼリフらしい。名指しされた建築家、槇文彦氏と伊東豊雄氏に
ついてはハディド氏当人が昨年暮れ、英デザイン専門サイトに
怒りをぶちまけている。両氏ら5人を日本の「偽善者」と呼び
「自分たちは海外で盛んに仕事しながら、東京の国立競技場は
外国人に建てさせようとしない」と非難した。

槇氏は2年前の夏、競技場事業の進め方に疑問を投げかける
論考を発表した。東京都豊島区の多児貞子さん(69)は
深く共鳴した。槇氏の講演を聴いた知人らと「神宮外苑と
国立競技場を未来へ手わたす会」を立ち上げた。

多児さんはかつて東京駅赤レンガ駅舎保存に黒衣として
携わった。「日本では歴史ある建物を深く考えずに
壊してしまう。保存を求めて担当者にかけ合うと困った顔を
される。『もう決まったこと』『上が決めたこと』。
国立競技場問題でも似た顔をされました」

「手わたす会」は旧競技場を改修して使うことを目標にすえた。
解体された後は、ハディド案の見直しを訴え、勉強会を開いた。
「これから先が大切。やり直しコンペで、同じお偉方が市民の
声を吸い上げないまま同じ感覚で選ぶとしたら大問題です」

たしかにイチからやり直すというのに、混迷を招いたお偉方は
だれも退場していない。「明確な責任者が誰かわからないまま
来てしまった」と文科相が 言えば、「誰に責任があるとか
そもそも論は言わない」と首相がかばう。60億円近い大金を
ムダにされた下々には納得しがたい展開である。

大艦巨砲、干拓、ダム、五輪。戦前から日本では国策と
なるとお上がブレーキを失う。
破綻(はたん)するや「内心は反対だった」と言い訳する。
あげく「状況が変わった」「誰も悪くない」とかばい合う。
これを無責任の体系と呼ぶ。

    *

改めて調べてみると、ハディド作品は海外でも盛んに
物議を醸していた。

たとえばスイスの古都バーゼルでは音楽堂だった。
コンペで選ばれたハディド案に「宇宙船みたい」と批判が
噴出。有志が4千人の署名を集めて住民投票に持ち込んだ。
反対が6割を超え着工は見送られた。8年前のことだ。

有志代表のアレクサンドラ・ステヘリンさんは「奇怪な設計を
見て立ち上がった。中世以来の街並みが台無しにされる
ところでした」と振りかえる。進むも引くもお上が決めてしまう
日本とは好対照ではないか。

お隣韓国では、ハディド建築に対し完成後も不満が尾を引く。
東大門デザインプラザという公共施設だ。

現地を見た。曲線がうねうねと波打ち、巨体が周囲を圧する。
住民たちは「不時着した宇宙船」と酷評した。私の目には
「肥満のトカゲ」と映った。

「外観だけなら天下一品。でも建築士たちは曲面ばかりの
難工事に泣き、館内で働く人々は使い勝手の悪さに
泣いています」。
建築家の兪ヒョン準・弘益大学教授(45)は容赦ない。

そんなハディド作品が数々の国際コンペを制するのはなぜか。
「流線形のデザインがお偉方の功名心を刺激するからです。
斬新な建物を自分の治績にしたい、後世に名を残したいと
思う政治家が飛びつく外観なのです」

    *

さて森喜朗・元首相はあさって28日、マレーシアで始まる
国際オリンピック委員会(IOC)の会合に出席する。
2020年の本番に向け進捗(しんちょく)や意気込みを
語る晴れ舞台である。だがその場でなぜハディド案を

ほごにしたか説明を求められるのは必至だ。

「ドロッと垂れた生ガキのよう」「実は好きじゃなかった」。
稚拙な言い訳は切に控えていただきたい。


コメントです。
新国立競技場についての話題です。
ハディド氏批判が主な内容ですが、
コンペティションに勝ち抜くために
奇抜なデザインを書き続けて
まわりとの調和を考えないのも
どうかなと思います。
それから、そのデザインに乗って功名心を
上げようとする政治家ですが、基本、
思考がかなり幼稚みたいですね。












posted by salsaseoul at 22:42| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本・社会
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