米英独仏中ロ6カ国とイランは14日、問題解決のための
「包括的共同行動計画」で最終合意に達した。
イランは今後10年以上にわたり核開発を大幅に制限し、
軍事施設への査察も条件付きで受け入れる。
核不拡散条約(NPT)体制のもと、外交交渉で新たな
核兵器保有国ができるのを防ぐ歴史的な合意となる。
2002年にイランのウラン濃縮が発覚し、核兵器開発が
疑われた問題は、13年かかって妥協点を見いだした。
見返りに、米欧や国連は原油禁輸や金融取引制限などの
制裁を解除していく。AP通信は数百億ドル(数兆円)分の
制裁が緩和されると伝えた。
世界有数の産油国イランと日本が取引を正常化させる
きっかけにつながり、ホルムズ海峡が焦点となってきた
安全保障法制の論議にも影響を及ぼしそうだ。
オバマ米大統領は合意後に演説し、「(イランの)核兵器への
全ての道は断たれた」と成果を強調した。
また、イランとの立場の違いや困難な歴史はあるとしながら
「変えていくことはできる」と強調。
将来の関係改善にも含みを持たせた。
計画によると、イランはウラン濃縮に使う遠心分離器の数を
3分の1に減らし、1万2千キロある低濃縮ウランを
300キロに削減。今後10年以上はすぐに核兵器を
作れないレベルに核開発を制限する。争点だった査察は、
軍事施設を含めて認めるが、事前にイランと国際原子力機関
(IAEA)で調整する。武器禁輸は制裁解除後も5年続ける。
IAEAとイランは14日、核兵器開発疑惑を解明する
行程表で合意。10月15日までに、イランはすべての
疑問点をIAEAに説明する。イランのロハニ大統領は
テレビ演説し、「核兵器をつくることは決してない」とした。
イランは、経済の回復を最優先させた。米欧側も、
NPT体制の国際秩序を保てると判断したとみられる。
イランが核武装すれば、周辺国に「核のドミノ」が
広がる恐れもあった。
一方、イランと厳しく対立するイスラエルのネタニヤフ首相は
14日、「合意は世界にとって歴史的な誤りだ」と強く批判した。
(ウィーン=奥寺淳、神田大介)
■最終合意の骨子(カッコ内は期間)
・イランは高濃縮ウラン、兵器級プルトニウムを製造しない
(15年間)
・イランは約1万2千キロある低濃縮ウランを300キロに減らす
(15年間)
・IAEAはあらゆる施設に査察をする
・合意の履行が確認されれば、欧州連合(EU)は核関連の制裁を
解除、米国は制裁を緩和、核問題に関する国連安保理決議は解除
・合意違反があれば制裁を再び科す
◆キーワード
<イラン核開発問題> 2002年、イラン国内で
核施設の建設が進んでいることが発覚。国際社会は
核兵器製造を狙った動きだと疑った。イランは03年、
英独仏とウラン濃縮の一時停止で合意したが、05年に
強硬派のアフマディネジャド大統領が就任し、06年に
濃縮を再開。国連安全保障理事会の制裁決議を無視し、
「民生用」を口実に核開発を続けた。13年に穏健派の
ロハニ大統領が就任すると融和路線に転じ、15年4月、
米英独仏中ロとの間で核開発制限を盛り込んだ「枠組み」
に合意した。
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世界の政治地図が塗り変わる一歩になるかもしれない。
中東の大国イランの核開発をめぐる米欧ロシアなど
6カ国とイランとの協議が最終合意に達した。
イランは核開発を縮小することとなり、核武装の悪夢は
遠のいた。欧米の制裁解除により、1979年の革命
以来続く孤立状態から、国際社会への復帰へと歩を
進める。中東の安定に向けて米国とイランが手を
携える可能性も現実味を帯びてきた。
むろん長年の対立構造を解く作業は緒に就いた
ばかりだ。楽観は許されない。それだけに、この流れを
確固たるものにする国際的な結束が欠かせない。
米国とイランの対立は、数多くの分野で国際社会の
行動を制約してきた。核兵器の拡散を防ぐ努力でも、
世界のエネルギー政策でも、両国間の緊張が重い
足かせとなっていた。
しかし近年は、不毛な対立に当事国同士が疲弊
していた。イランは経済を再建したい。米国は
過激派組織「イスラム国」対策やイラクの安定で
イランの協力を得たい。隔たりを克服して合意に
こぎ着けたのは、双方の理性の勝利と言えるだろう。
変化はあくまで始まりに過ぎない。合意の実を
あげるには課題が残っている。交渉の過程で培った
大局観のもと、関係各国は今後も大胆な妥協も
辞さない姿勢で臨むべきだ。
イランは、核疑惑を再び持たれないよう、核武装から
きっぱりと手を引き、今後も信頼回復への努力を
重ねる必要がある。この国の国際的な評価を
損ねてきたのは、度重なる秘密裏の活動に
他ならないからだ。
合意には、各国で抵抗勢力も残る。米国の野党
共和党や、イランの保守派。中東でもイスラエルや
サウジアラビアなどが、懐疑的な姿勢を変えていない。
米欧の各政府は今後も説得を重ね、イラン問題を
めぐる不信感をぬぐう作業が欠かせない。
エネルギー市場でのイランへの期待はかねて大きい。
ガス確認埋蔵量は世界1位、原油確認埋蔵量は
4位の大資源国だ。世界の資源戦略を一変
させかねない。シリアやイエメンなどの紛争への
影響力や、人口が8千万近い市場にも存在感がある。
イランが米欧との接近を進めれば、日本の安全
保障にも大きく影響する。集団的自衛権行使の
場として、安倍首相はこの湾岸での機雷掃海を
挙げるが、もはやそんな想定は難しい。
世界の流れから取り残されないよう現実を
見すえ、実のある真の国際貢献を考える。
発想の転換は、日本にも求められる。
コメントです。
米国(?)がキューバに引き続き、
イランとも和解方向に進みました。
現状では、中国の台頭や、砂漠の国の
やっかいな勢力とも対立していかなければ
ならないので、このような軟化政策を
とったのでしょうね。
いずれにしても、米国の和解政策は
賢明な選択だと思います。