襲撃事件が起きたチュニジアの首都チュニス。この街に住む
運転手マルウェンさん(25)は数年前、失意の日々を過ごしていた。
親友を交通事故やがんで亡くし、自分も失業中。近所のモスク
(イスラム教礼拝所)に通い始めた。
祈りの後、男2人に声をかけられた。高級車に乗り、カフェで2度、
朝食をおごってくれた。男らはイスラム教について語り、
「世界で何が起きているか学んでほしい」とDVDを渡された。
映画のように凝ったつくりの映像。ビーチで遊び、酒を飲む若者らを
津波が襲うような場面があった。不信心者は災いに襲われるという
警告だ。2001年の米同時多発テロの映像や、聖典コーランの
言葉も出てきた。
「良いイスラム教徒ならば悪と戦わねばならないと思わせる内容だった」
その後、男の一人が「私はジハード(聖戦)に行く機会があれば、
決してノーとは言わない」と諭してきた。
マルウェンさんはたまたま臨時雇いの仕事を得て首都を離れた。
仕事は忙しく、夜はディスコで遊び、男からの電話は無視した。
チュニスに戻ると「なぜ電話に出なかった」と詰問され、殴られた。
そして男たちは姿を消した。戦闘員候補を物色していたのだ――。
マルウェンさんはそう確信している。
イスラム過激派が若者を誘い込む手口は欧州でも巧みだ。
ベルギーの 首都ブリュッセル西部モランベークサンジャン
(通称モランベーク)。モロッコ系住民が集中する地区の
アパートの一室に、10代の若者数人が集まっていた。
ホームレスに食糧を提供するなど慈善活動をしている
グループの会合だ。近くに住むモロッコ系のハサンさん(28)も
声をかけられ、参加した。
だが、この日はいつもと少し雰囲気が違う。すると、中心に座って
いたあごひげを蓄えた白人の男が参加者に語りかけた。
「君たちは負け組だ。何をすれば良いか分からないだろう。
一緒においで。美しい国だ。ここみたいに寒くない。ひと月の
訓練に3千ユーロ(約39万円)払おう。そして、シリアで闘うんだ」
ハサンさんは「まずお前が行け」と抗議した。
だが、その場にいたモロッコ系の少年(14)は後で、こう打ち明けた。
「ベルギーが自分の国のように思えない。僕は外国人。僕の
本当の祖国はイラクかシリアかあの辺りにある」
■失業率4割…若者絶望、つけ込む過激派
ベルギーの首都ブリュッセル西部のモランベーク区の地下鉄の
改札口を出ると、自動小銃を持った警察官4人がじっとこちらを
見た。近くの警察署玄関は鉄柵で囲われ、重武装した警官が
見張っている。そばには数十メートルごとにイスラム教の礼拝所
モスクがあり、周りはアラビア語の看板も目立つ。
モランべークは、ベルギーの捜査当局が1月、国内で大規模テロを
計画した容疑でイスラム過激派グループの拠点とみられる
計6カ所を捜索した街だ。
捜索は国内各地で行われ、ベルギー東 部ベルビエでは、当局との
銃撃戦の末、モロッコ系の移民2世、カリ・ベンラビ容疑者(23)が
射殺された。同容疑者はモランべークで生まれた。地元紙によると、
銃撃戦で死亡したもう一人の容疑者と、逃走中の首謀者の
アブデルアミド・アバウド容疑者(27)もモランべークの出身だという。
19世紀前半の産業革命以降、モランべークでは街の東を通る運
河沿いに工場が多く建設され、労働者が移り住んだ。
1960年代半ばから、不足した労働力を補うため政府が受け入れる
ようになったモロッコ人が住むようになった。モランべーク区によると、
現在は住民約9万5千人のほぼ半数がモロッコ系だという。
国の統計によると、モランべークの住民の12年の平均年収は、
国全体の6割の約1万ユーロ(約130万円)にとどまる。
区は「ブリュッセルの自治体で下から2番目に貧しい」と説明する。
失業率は30%近く(国平均8・5%)で若年層になると
4割を超えるという。
モランべークに住むハサンさん(28)は、ベンラビ容疑者の
幼なじみだった。親しみを込めて、容疑者を「カリ」と呼ぶ。
「カリ」はモロッコ人の一 般的な家庭に生まれた。
高校卒業後、スーパーの配達員を半年やったものの契約を
切られ、その後、窃盗などで逮捕されるようになった。
その「カリ」が1年ほど前、突然ハサンさんに電話をしてきて告げた。
「ここには何もない。俺は出て行く」
ハサンさんは後に「カリ」がフェイスブックに掲載した写真で、
シリアに渡り、過激派組織「イスラム国」(IS)に加わったと
知った。ハサンさんは、「カリ」がいつ過激なイスラム教の思想に
のめり込んでいったのか、見当もつかなかったと語る。ISは2月、
英字機関誌「ダビク」に、射殺された「カリ」たちの写真を「英雄」
として掲載した。
ハサンさんも高卒で、生活は楽ではない。昼は公共施設、夜も
警備員として働いている。「イスラム教は平和の宗教」だから、
シリアに行こうとは思わないが、「カリ」の絶望は理解できる。
「この街で生まれ、学歴も、職も資格もなく、この先、将来が
良くなるという希望もない時、どうやってここから抜け出せるのか」
過激派の戦闘員になりたいという若者の相談に乗るブリュッセルの
中央モスクの説教師モハメド・ガライエ・ンディアイさんは
「良い学校に行けず、就職できず、犯罪に手を染めた若者に
過激派戦闘員のリクルーターが目をつけて、『殉教者になれば天国に
行ける』と誘っている。これは宗教ではなく、社会の問題だ」と指摘する。
ロンドン大学キングスカレッジによると、ベルギーからシリアや
イラクの反体制派の武装グループに440人が加わった。
人口比では西欧諸国では断トツに多い。
モランべークではイスラム過激派のグループとのつながりを
疑われまいと、誰もが口をつぐむ。
モランべークのフランソワ・シェプマン区長は、「モロッコ系という
マイノリティーが多すぎることで、住民全体の社会参加の意識が
希薄になってい る。自治体は文化や社会、教育分野の施策の
実行を通じて、若者の過激化を防ぐ必要がある」と語った。
(チュニス=翁長忠雄、ブリュッセル=吉田美智子)
■武器取引は、静かな住宅街の一角
カリ容疑者ら、過激派戦闘員は自動小銃などで重武装していた。
1月の仏連続テロやベルギーのテロ未遂事件などで、専門家らは
「ベルギーが武器調達先になっている」と指摘する。
モランベーク近郊。比較的静かな住宅街の一角にその電気工事
会社の作業場があった。元従業員の男性(26)は作業場を指さし、
「ここで武器取引をしていた」と証言した。
男性は、3年前の夕方、2人のチェコ人が通常の資材搬入のような
格好で車のトランクから毛布にくるまれた自動小銃を運んで
いたという。「AK47(自動小銃)が6丁以上あった」と話す。
会社の経営者の40代の男性が「副業」でやっていたのだという。
経営者に聞くと、ベルギーに住むチェコ人が東欧から武器を仕入れ、
車で運んで来ると教えてくれたという。自動小銃は1500ユーロ
(約19万6千円)で買い、3千ユーロで転売するというが、売り先に
ついては口を閉ざした。経営者はブリュッセル南西の高級住宅街に
住んでいるという。
男性は「工事の仕事をやっていると東欧系の労働者と接する
機会が多い。そこで武器取引の接点を持ったのではないか。
取引を見たのは1回だけだが、今もやっていると思う」と話す。
「経営者は普通の人で、武器は売るが使ったことはないはず。
中産階級の彼は、摘発のリスクも少ないと思う。武器市場は、
どこかに集中してあるわけではなく、分散して存在する」とも語った。
経営者に取材の依頼をしたが、拒否された。
一方、フランスでは移民が多く住むパリ郊外で容易に武器は
手に入ると人々は口ぐちに言う。パリ北西の町セルジーに住む
コンゴ共和国系の男性は武器取引の仲介ができるという。
「自分でなくても、移民街に住む者は大抵、知人をたどれば
行きつく」と話す。
「旧ユーゴスラビアの人たちの武器が一番質がいい。自動小銃も
手に入るが、銃弾が手に入りにくい。短銃は数百ユーロだが、
強盗に使われた銃は半値以下になる」と語った。
(ブリュッセル=杉山正)
■新たな脅威…軍事訓練受け帰国し、テロ実行
ISなどの過激派組織で戦闘に参加したり、軍事訓練を受けたり
した人々が帰国後にテロを起こす事件が相次ぎ、国境を越えた
脅威が広がっている。
国連安保理の専門家パネルの報告書は、ISなどに加わった外国人
戦闘員の規模は「100カ国以上からの2万5千人以上」と指摘している。
チュニジアからは最大の3千人以上がISなどの過激派組織に
加わっている。AFP通信によると既に約500人が帰国したという。
北アフリカで治安がよいとされていた首都チュニスでは、3月に
日本人3人も犠牲になった博物館襲撃事件が発生し、実行犯は
過激派組織が勢力を伸ばす隣国リビアで軍事訓練を受けていた。
また、欧州連合(EU)各国からは過激派思想に共鳴してシリアに
渡った人々は3千から5千人とされ、1千人近くが既にEU内に
戻っているという推定もある。
今年1月に起きたフランス連続テロ事件では、実行犯の兄弟は
イエメンを拠点とする「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」で
軍事訓練を受けたとされ、他の1人はISとの関連を自称していた。
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欧州で、移民系の若者が過激派組織にスカウトされる
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