2015年1月7日 朝日新聞
かかわる特許を、無償で開放する。巨額の費用がかかることから
FCVの開発に二の足を踏むライバル社などに、参入を促す狙いだ。
「独り占め」するより、市場を広げることを優先する。
「水素社会は、いろいろな会社が参加してくれないとできない」。
豊田章男社長は6日、こう説明した。
燃料の水素と空気中の酸素を化学反応させて電気をつくる
基幹部品「スタック」関連の約1970件を始め、計5680件の
特許をすべて対象にする。過去にはハイブリッド車(HV)の技術を、
マツダや富士重工業などに提供していたがいずれも有償だった。
巨額を投じた「虎の子」の技術を無償で出すことには、社内でも特に
技術部門から「反対意見が強かった」(幹部)という。
だが、FCVの普及には、政府やエネルギー業界の支援が欠かせない。
決断を促したのは、「オンリーワン」の技術のままではいつまでたっても
広がらないという危機感だった。
水素ステーション関連の約70件の特許は無期限で無償提供するが、
その他ほとんどの特許を無償で提供する期限は、FCVの本格的な
販売が始まる2020年末までに区切った。「その頃までに新しいFCVの
技術開発し、今回出す特許を陳腐化させてみせる」(幹部)と意気込む。
燃料電池車は、ホンダが15年度中に発売すると発表している。
開発を進める日産自動車の志賀俊之副会長は、豊田社長への
賛辞を惜しまなかった。
本人にも直接「すばらしい英断だ」と話しかけたという。
別メーカーの幹部は「特許を使っていきなり車は作れないが、ある程度
開発が進んでいれば、実現へのヒントが見つかるかもしれない」と話す。
■IT・電機業界、先行
自動車関連では、米国の電気自動車(EV)ベンチャーの
テスラ・モーターズが昨年6月、EVに関するすべての特許に
ついて、他社が使うのを認める方針を打ち出した。
これまで自動車業界では、特許を他社にも使わせることは
珍しかった。
一方でIT(情報技術)や電機業界では、すでに一般的な手法に
なっている。例えば、グーグルが開発した基本ソフト(OS)
「アンドロイド」がよく知られている。半導体メーカーや
通信会社などが参加する企業連合を通じて無償公開されている。
新しいソフトウェアやサービスが開発されることで、OSの
価値自体も高める狙いだ。
特許は、日本では特許庁が審査し、認められると最長20年間は、
他社が勝手に使うことができなくなる。他社が特許を使う場合、
ライセンス料を受け取り、もうけを出すこともできる。
ただ、特許を取れば技術情報は公開されるので、あえて特許を
取らないケースもある。新日鉄住金は、新しい技術を取り込んだ
「方向性電磁鋼板」の製造方法について、特許を取らなかった。
法規制の緩い新興国などで、模倣されるのを防ぐ狙いからだった。
■企業は知的財産をどう活用しているか
<特許を公開し「標準化」目指す>
【主な利点】 参入企業が増え、市場が拡大。製造コスト減
【具体例】 トヨタ自動車が燃料電池車の特許を無償公開
テスラ・モーターズが電気自動車の特許を無償公開
<特許権として保護>
【主な利点】 自社のシェアやライセンス収入拡大
【具体例】 TOTOが光触媒技術でライセンス収入増
<特許権を取らずに「企業秘密」に>
【主な利点】 規制の緩い国でも模倣されにくい
【具体例】 新日鉄住金の「方向性電磁鋼板」の製造方法
コメントです。
メガ企業が、機軸となる収益源をきちんと確保し、
含み資産も有り余るほど抱えて、そして社会貢献の
一環として自社保有の特許を無償公開して市場の
拡大を促す。
もちろん、そこに至るまで、長い年月と多くの社員及び
関係者の努力の積み重ねで今回の無償公開が実現
したのでしょう。
将来、それがどのような展開になるかは想像もつきませんが、
産業界の一事例として掲載します。