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2021年01月24日

人口の1/3が死んだ「黒死病」はいかに社会を変えたか【感染症、歴史の教訓】

労働力不足で社会は崩壊、それでも恐ろしい疫病に「恩恵」はあった


またたく間に世界を大きく変えてしまった新型コロナウイルス感染症。
わたしたちの暮らしや社会が今後どうなるのか心配な人は多いだろう。


猛スピードで広がり、膨大な死者をもたらした恐るべき疫病


ネズミのせいではなかった? 現代より
はるかに速く拡大した理由とは

ペスト菌はネズミによって拡散されたと
長い間信じられてきた。新型コロナで
話題になったカミュの小説『ペスト』でも、
冒頭からネズミがこれからやってくる災いを
象徴するように描かれている。
だが、犯人は別にいたようだという
研究結果が科学誌
「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に
2018年に発表されている。
論文によると、「犯人」はネズミでは
なく人間だ。実は、ペスト菌を直接媒介
するのはノミやシラミだ。
それをネズミや人間が運ぶことで病気は速く広がる。
 19世紀後半から現在まで続いている
腺ペストの流行では、ネズミやその他の
げっ歯類がそのノミを運ぶせいで菌を
拡散させていることがすでにわかっていた。
加えて、中世のペスト犠牲者の遺伝子を
調べた研究結果から、多くの専門家が
中世の世界流行もネズミによって
もたらされたと考えていた。
しかし、黒死病が広がった経路は別だったと
主張する歴史家もいた。根拠のひとつは、
新型コロナ感染症を除き、黒死病が
現代のどの伝染病よりもはるかに速く
欧州に広がったことだ。
また、現代のアウトブレイク(大流行)の
前には、ネズミの大量死がしばしば
確認されているが、中世で同様に
ネズミが大量死したという記録は
残されていない。
ならば、黒死病はいかにして広がったのか。
以前から、ノミやシラミを運んだのは
ネズミではなくヒトだったと考える
学者はいた。感染した人間から血を
吸ったノミやシラミがペスト菌も
一緒に吸い取り、すぐ近くにいる別の人間に
飛び移れば、その人間も感染する。
そこで、論文の著者で、
ノルウェー国立獣医学研究所に
所属するキャサリン・ディーン氏のチームは、
ネズミとヒトの場合のそれぞれに
おける感染拡大モデルを作成し、
統計的に評価した。すると意外なことに、
調査対象とした9都市の7つで、
ヒトのモデルの方が死亡の記録と
一致したのだ。  
ただし、ディーン氏らはさらに多くの
実験データを集めて、モデルを改善する
余地があるとしている。
また、この研究が疫病研究者の間で
論争を呼ぶだろうということも認めている。
「ペストに関しては、たくさん
の論争があります」というが、ディーン氏らは、
自分たちは客観的な立場にいるとしている。

人口が減り各地で社会が崩壊、だがそのおかげで……

犯人がいずれにせよ、交易路を介して、
最初に感染が広まったのは大きな商業都市だった。
そこから近隣の町や村へと放散し、
さらに田舎へと広がった。
中世の主な巡礼路も黒死病を運び、
各地の聖地は、地域内、国内、国家間の
伝染の中心地になった。  
ペスト菌が人々の家庭に忍び込むと、
16〜23日後になってようやく発症し、
その3〜5日後には患者が死亡する。
コミュニティーが危険に気づくのは
さらに1週間後で、その頃にはもう手遅れだ。
ペスト菌は患者のリンパ節に移行し、
腫れ上がらせる。
患者は嘔吐し、頭痛に苦しみ、高熱に
よりガタガタと震え、せん妄状態になる。  
当時の町では「すぐに逃げろ、急いで
遠くに行け、戻るのはあとにするほど
よい」と言われていた。
この助言にしたがって避難する余裕ある
人々の多くが田舎に逃げたため、
悲惨な結果になった。避難した人々も
すでに感染していたり、感染者と一緒に
旅をしたりしたため、自分たちが
助からなかったばかりか、それまで
感染者がいなかった遠隔地の村に
病気を持ち込むことになってし
まったのだ。  黒死病の犠牲者は
膨大な数に上ったと推定されているが、
具体的な数字については論争がある。
パンデミック前のヨーロッパの
人口は約7500万人だったが、
1347年から1351年までの間に激減
して5000万人になったと見積もられている。
死亡率はもっと高かったと見る研究者もいる。
 
人口が激減したのは、黒死病に罹患した人々が
死亡しただけでなく、畑や家畜や家族の
世話をする人がいなくなり、広い範囲で
社会が崩壊したからだった。
中世のパンデミックが終わったあとも
小規模な流行は続き、ヨーロッパの人口は
なかなか回復しなかった。
ようやく人口増加が軌道にのってきたのは
16世紀頃だ。  
大災害の影響は生活のあらゆる領域に及んだ。
パンデミック後の数十年間は労働力不足に
より賃金が高騰した。かつての肥沃な農地の
多くが牧場になり、丸ごと打ち捨てられる村もあった。
 英国だけで1000近い村が消えた。

とはいえ、悪い面ばかりではなかった。
地方から都市に向かって大規模な
移住が起きたため、都市は比較的速やかに
回復し、商業は活気を取り戻した。
田舎に残った農民は遊休地を手に入れ、
土地を持つ農民の権力が増し、
農村経済が活性化した。  
実際、歴史学者たちは、黒死病から
新しい機会や創造性や富が生まれ、
そこからルネサンスの芸術や文化や
概念が開花し、近代ヨーロッパが
始まったと主張している。

ひるがえって、いまの新型コロナウイルス
感染症のパンデミックによって、
何か新しい価値や社会が生まれるのだろうか。
災いを福に転じられるかどうかは、
これからを生きるわたしたちにかかっている。








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posted by salsaseoul at 02:07| Comment(0) | TrackBack(0) | covid-19