各地の小学校、中学校で4月から7月にかけて実施中の
「全国体力調査」で、圧倒的な成績を誇るのが福井県だ。
過去8回の調査で、小学5年男女はすべて1位。
中学2年も1位が男子で3回、女子で5回ある。
その秘密はどこにあるのだろうか。
4月下旬、福井県内であった小中学校の体育科と
保健体育科の研修会。県教育庁が全国体力調査の結果分析や、
2013年から取り組む、1日1時間は体を動かそうと
いう小学校での試みについて説明した。
その後、休み時間を延ばして体力作りをする「業間体育」
などについて、現場の教員同士が話し合った。
「業間体育」は福井の特色とされているが、同様の取り組みは
全国に広がっている。県教育庁の担当者は
「昔ながらの取り組みを続けているだけで、他と比べたら
遅れているかもしれない」と話した。
では、好成績を挙げ続ける秘密はどこにあるのか。
県内の小、中学校で25年以上の指導経験があり、
全国的な研修にも参加したことがある男性教諭は
「子どもががんばろうと思う環境を作ること」を
ポイントに挙げた。
「福井県は学級作りが優れている」と自負する。
背景に、三つの独自策があると県教育庁は説明する。
一つ目は少人数学級。国の標準は小1が35人、
小2〜中3が40人だが、福井では小1から小4まで
35人、小5、小6は36人、中1は30人、中2、中3は
32人としている。
小学校は31人以上の学級を複数の教員で指導している。
二つ目は中学の「縦持ち」。
一人の教員が同学年の複数学級を担当する「横持ち」の
方が授業準備の面などで効率がいいが、福井では一人の
教員が複数学年を担当し、教員同士が協力する。
そして三つ目は、頻繁な教員の学年会議。週1回は開き、
子どもの状況などについての情報共有を心掛けている。
視察に訪れる他の都道府県からは、
きめ細かさに驚かれるという。
文科省が小6と中3を対象に行っている全国学力調査でも
福井は全国トップクラスだ。県教育庁は「体力作りに限らず、
学校が一体となって取り組む文化がある」と胸を張る。
■「現場の熱意」が影響か
全国体力調査の検討委員を務める内藤久士・順大スポーツ
健康科学部長も、順位は現場の熱意の影響が
大きいと見ている。
調査に反対していた教職員組合もある。
体力作りに取り組んでも、測定は重視しないという
教員もいる。いい記録を出したいという子供に何度でも
やり直しをさせる教員もいれば、
1回で終わりだという教員もいる」
1964年東京五輪をきっかけに始まった旧文部省の
かつての調査は、人数を絞り込んでサンプルを
取り出す方式だった。
福井県はそれに先がけ、小4から高3までの子ども全員を
対象に、県独自の体力調査を63年に始めた。
結果をもとに各校が体力作り推進の「計画」と「報告」を
作成し、県に提出する。
全国調査で福井に次ぐ好成績を挙げる茨城県も同様に、
67年から独自の調査を行ってきた。茨城県教育庁の
担当者は「親世代や教員が子供の頃から、体力調査が
当たり前に実施されてきた。伝統があるので地域や
家庭の関心が高い」と好成績への影響を認める。
「体力日本一」の福井県には、実は気になる結果が
あるという。
16年度の調査で、体育の授業が「楽しい」と
答えた中2男女の割合が全国平均を下回っていた。
県教育庁の担当者は4月の研修会で「日本一にな
りましたが、子供たちが感じていることを見逃さないように
してください」と教員に呼びかけていた。
全国体力調査では、体力テストの測定値や順位だけでなく、
アンケートから体力作りの課題を探っている。
内藤学部長も「学校は数値だけでなく、子供の運動への
意識との関係を分析した上で、
各家庭に伝えるようにして欲しい」と話している。
(忠鉢信一)
◇
〈スポーツ庁の全国体力調査〉
正式名称は
「全国体力・運動能力、運動習慣等調査」。
現在の調査は文部科学省が2008年度から始めた。
全国の小学5年と中学2年のほぼ全員が対象で、
例年4〜7月に実施。体力テストの種目は握力、
上体起こし、長座体前屈、反復横跳び、
50メートル走、立ち幅跳び、ソフトボール
(中学はハンドボール)投げ、20メートル
シャトルラン(中学は持久走でも可)の八つ。
結果は点数化し、各都道府県別の成績も示す。
運動習慣などについての質問紙調査は、
学校と教育委員会も対象にして同時に行う。