広告大手の電通に勤務していた女性新入社員(当時24)が
昨年末に自殺したのは、長時間の過重労働が原因だった
として労災が認められた。遺族と代理人弁護士が7日、
記者会見して明らかにした。電通では1991年にも
入社2年目の男性社員が長時間労働が原因で自殺し、
遺族が起こした裁判で最高裁が会社側の責任を認定。
過労自殺で会社の責任を認める司法判断の流れをつくった。
その電通で、若手社員の過労自殺が繰り返された。亡くなったのは、入社1年目だった高橋まつりさん。
三田労働基準監督署(東京)が労災認定した。
認定は9月30日付。
高橋さんは東大文学部を卒業後、昨年4月に電通に入社。
インターネット広告を担当するデジタル・アカウント部に
配属された。代理人弁護士によると、10月以降に業務が
大幅に増え、労基署が認定した高橋さんの1カ月
(10月9日〜11月7日)の時間外労働は約105時間に
のぼった。
高橋さんは昨年12月25日、住んでいた都内の電通の
女子寮で自殺。その前から、SNSで「死にたい」などの
メッセージを同僚・友人らに送っていた。三田労基署は
「仕事量が著しく増加し、時間外労働も大幅に増える
状況になった」と認定し、心理的負荷による精神障害で
過労自殺に至ったと結論づけた。
電通は先月、インターネット広告業務で不正な取引があり、
広告主に代金の過大請求を繰り返していたと発表した。
担当部署が恒常的な人手不足に陥っていたと説明し、
「現場を理解して人員配置すべきだった」として経営に
責任があるとしていた。高橋さんが所属していたのも、
ネット広告業務を扱う部署だった。
電通は00年の最高裁判決以降、社員の出退勤時間の
管理を徹底するなどとしていたが、過労自殺の再発を
防げなかった。代理人弁護士によると、電通は労基署に
届け出た時間外労働の上限を超えないように、
「勤務状況報告書」を作成するよう社員に指導していたと
いう。電通は「社員の自殺については厳粛に受け止めている。
労災認定については内容を把握していないので、
コメントは差し控える」としている。(千葉卓朗)
関連記事です。
「死んでしまいたい」 過労自殺の電通社員、悲痛な叫び
広告大手、電通の新入社員だった高橋まつりさん(当時24)が、
過労自殺だったとして労災認定された。母親の幸美さん(53)は
7日、厚生労働省で記者会見し、「労災認定されても娘は
戻ってこない。いのちより大切な仕事はありません。
過労死を繰り返さないで」と訴えた。遺族側の代理人弁護士によると、高橋さんが配属されたのは
インターネット広告を担当する部署だった。自動車保険などの
広告を担当し、クライアント企業の広告データの集計・分析、
リポートの作成などが主な業務だったという。 業務が大幅に増えたのは、試用期間が終わり、本採用に
なった昨年10月以降。部署の人数が14人から6人に
減ったうえ、担当する企業が増えた。月100時間を超える
時間外労働をこなしたこともあり、高橋さんは精神障害に
よる労災認定の基準の一つを超えたと判断された。
電通では、社内の飲み会の準備をする幹事業務も新入社員に
担当させており、「接待やプレゼンテーションの
企画・立案・実行を実践する重要な訓練の場」と位置づけている。
飲み会の後には「反省会」が開かれ、深夜まで先輩社員から
細かい指導を受けていた。上司から「君の残業時間は会社に
とって無駄」「髪がボサボサ、目が充血したまま出勤するな」
「女子力がない」などと注意もされていたという。
「本気で死んでしまいたい」「寝たい以外の感情を失った」
「こんなストレスフルな毎日を乗り越えた先に何が残るんだろうか」。
高橋さんはSNSなどで友人や母親に、
仕事のつらさを打ち明けていた。
心配した幸美さんが電話すると、まつりさんは
「転職するか休職するか、自分で決断する」と答えた。1
1月には上司に仕事を減らしてもらうよう頼んでいた。
幸美さんは「自分で解決してくれる」と娘を信じた。
昨年12月25日朝、まつりさんから幸美さんに
「今までありがとう」とメールが来た。幸美さんが電話で
「死んではだめ」と呼びかけると、まつりさんは「うん」と
答えた。それが、最後のやりとりになった。
■電通、再発防止を誓うも…
電通では1991年にも入社2年目の社員(当時24)が自殺。
電通は当時、会社としての責任を認めなかったが、
00年3月の最高裁判決は「会社は過労で社員が
心身の健康を損なわないようにする責任がある」と認定。
過労自殺で会社の責任を認める司法判断の流れをつくった。
電通はその後、遺族と和解。責任を認めて再発防止を誓った。
この裁判を担当したのが、高橋さん側の代理人を務めて
いる川人博弁護士だ。川人氏は7日の会見で、労働時間の
把握がずさんだったり、上司の安全配慮に対する意識が
十分でなかったりした可能性を指摘。「企業責任は重大。
抜本的な企業体質の改善が必要だ」と強調した。
「過労死・過労自殺のない社会をつくりたい」という遺族の
願いから生まれた過労死等防止対策推進法が2年前に
施行され、7日には初の「過労死等防止対策白書」が
閣議決定された。
しかし、過労死・過労自殺は後を絶たない。
最近は高橋さんのような若い世代が、心の病で
自ら命を絶つケースが目立つ。
08年6月にはワタミグループの居酒屋で働く新入社員が自殺。
月141時間の時間外労働があったとして、労災認定された。
遺族が会社の法的責任を追及して提訴し、15年12月には
会社や創業者の渡辺美樹氏(現自民党参院議員)が
法的責任を認めている。
川人氏は「防止法の成立後も、職場の深刻な実態が
続いている。国と企業が過労死防止に全力で取り組む
よう心より訴えたい」と話した。
(千葉卓朗、編集委員・沢路毅彦)
過労死ラインの残業80時間超、企業の2割で 初の白書
厚生労働省は7日、過労死の実態や防止策の実施状況などを
報告する「過労死等防止対策白書」を初めてまとめた。
2014年に施行された「過労死等防止対策推進法」が、
過労死をとりまく状況の報告書を毎年つくるよう定めたことを
受けて作成したもので、15年度の状況をまとめた。
白書は280ページで、過労死や過労自殺の現状や防止策、
残業が発生する理由などを説明。1980年代後半から
社会問題化し、91年に結成された「全国過労死を考える家族の会」
の活動が同法の制定につながったことにも触れている。
15年度に過労死で労災認定された人は96人、過労自殺
(未遂を含む)による労災認定は93人。過労死による
労災認定は02年度に160人にのぼったが、14年ぶりに
100人を割った。ただ、過労死・過労自殺(同)をあわせた
認定件数は近年、200件前後で高止まりしている。
企業約1万社を対象に15年12月〜16年1月に実施
(回答は1743社)し、5月に公表した調査結果も白書に
盛り込んだ。それによると、1カ月の残業が最も長かった
正社員の残業時間が「過労死ライン」の80時間を超えた
企業は22・7%。「情報通信業」「学術研究、専門・技術
サービス業」では4割を超えた。
同法は、過労死の防止策を進める責任が国にあることを
初めて明記。白書は「過労死の実態の解明には、業界を
取り巻く環境や労働者側の状況など、多岐にわたる要因を
分析する必要がある」と指摘し、労働者約2万人に対する
長期間の追跡調査や、長時間労働と健康に関する研究を
始める計画も盛り込んだ。
追跡調査は幅広い業種の約2万人について、健康診断の
結果と労働時間や仕事の負荷、睡眠時間、運動習慣、
飲酒や喫煙の有無などを10年間にわたって調べ
、どのような要因が過労死のリスクになるかを分析する。
今年度中にも調査を始め、毎年の白書で経過を
報告していく予定だ。
実験研究では、12時間のパソコン作業が循環器に
どのような影響を与えるかを調べる。10年1月〜15年3月に
労災認定された事案のデータベース化も進めており、
過労死の原因分析につなげる方針だ。(河合達郎)