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2016年08月28日

(小さないのち)子どもの死、防ぐために 事故・虐待の記録、朝日新聞と専門家が分析

朝日新聞 2016年8月28日

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過去10年間の子どもの死/解剖記録からみた子どもの死因/予防につながる要因がある死


 小さないのちを守りたい――。睡眠時の窒息、浴室での溺れ、
転落などで、子どもの命が失われている。痛ましい虐待や自殺も
後を絶たない。朝日新聞は、過去10年間に亡くなった子どもの
うち約5千人について、原因などが書かれた解剖記録を専門家と
分析した。約1900人の記録から、今後起こりうる事故や虐待を
防ぐための手がかりが見えてきた。

「母親の腕枕で就寝。目を覚ますと母親の左腕が覆いかぶさり
意識がない状態」。2014年に亡くなった0歳男児の記録からは、
母親の添い寝中に起きた窒息だったことが読み取れた。

同じ年には、家族4人が「川の字」で寝ていたところ、0歳男児に
きょうだいが覆いかぶさり、亡くなった。分析では、添い寝や
川の字で寝ていて亡くなった例が110件あった。

また、窒息などを引き起こす危険が指摘されている「うつぶせ」
状態も240件あった。その8割近くは、まだ寝返りを打つのが
難しいとされる「生後180日以内」だった。

このような睡眠時の事故は全体で469件あり、分析した中で
最も多かった。リスクを減らすには、うつぶせ寝ややわらかい
寝具を避けたり、なるべくベビーベッドを使ったりすることが
有効とされる。こうした情報が社会でさらに共有されていけば、
同じような事故を減らしていくことができるかもしれない。

今回、分析を試みたのは、05〜14年に行われた
司法・行政解剖のうち14歳以下の子どもの記録4952件。
事件性の判断や死因の解明のために解剖されたもので、

亡くなった子ども約4万6千人の約1割にあたる。記録は
法医学者の間で研究用に共有されており、非公表だ。
氏名などの個人情報はなく、原因や状況がある程度記されている。

事故予防に詳しい山中龍宏医師、日本子ども虐待防止学会長の
奥山真紀子医師の協力を得た。日本小児科学会は今年、
東京などの368の死亡例を、予防につながる要因があるか
どうかの観点で試行的に分析しており、その手法や、子どもの
死の検証制度がある海外の事例などを参考にした。

その結果、今後起きうる事故の予防につながる要因が
読み取れたのは849件。睡眠時に次いで多かったのは

浴室やプールでの溺死(できし)、転落・転倒、食べ物を
気管に詰まらせる誤嚥(ごえん)などだ。

 一方、虐待や無理心中、自殺など、社会的な対応に
よっては防ぎうる要因を見いだせる記録も1067件あった。
うち379件と最多だったのが、出産直後の赤ちゃんを
遺棄するなどの「産み落とし」だった。
産み落としの全体を把握する国の統計はない。

 ■<視点>海外には検証制度

いまの社会はまだ、一人ひとりの子どもの死ときちんと
向き合えていないのではないか。

「子を失うと親は自分を責め、周囲からも責められる。
でも一番つらいのは、うちの子の存在がなかったことになること」。
取材した多くの遺族たちの思いだ。責任を追及することよりも、
子どもの命を少しでも守るためにできることを考えたい。

米国や豪州などでは、事故や虐待、自殺などによる子どもの
死亡について、医療機関や捜査機関などが情報を持ち寄って
検証する制度が定着している。予防につながる要因がある
ケースを「プリベンタブル・デス(予防可能な死)」ととらえる考えが
広がり、事故などを減らす対策や啓発活動につなげている。

日本には、こうした検証制度はまだない。厚生労働省の人口
動態統計によると、子どもの事故死は減りつつあるとはいえ、

同じような事故が繰り返されている。厚労省研究班の11年度の
報告書によると、日本の新生児の死亡率は先進19カ国で
最も低い水準だが、1〜4歳児では中位になってしまう。

今回分析した記録では、死に至る経緯が比較的詳しく
書かれている一方で、家庭環境などの情報はほとんどなく、
検証には限界があった。私たちの分析も十分とはいえない。

政府は6月、事故死の情報を共有・分析する連絡会議を
立ち上げたが、本格的な検証制度づくりを考える時期に
きている。(板橋洋佳、座小田英史)

 ◇かけがえのない子どもの命について考える企画
   「小さないのち」を始めます。


コメントです
こどもの事故死の記事です。

事例について少しでもデータベース化を
進めて、防止策を強化して欲しいですね。



posted by salsaseoul at 12:47| Comment(0) | TrackBack(0) | 医療

どんな時に食べ物を捨てますか? 食品ロス、半分は家庭



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ごみ袋を開き、種類ごとのバケツにより分けた京都市の調査の様子=2012年、市提供


どんな時に食べ物を捨てますか? 
「食べ物は命」「世界には飢えている人が大勢いる」と、
叱られた覚えのある人もいるでしょう。食べられるのに捨てられる
「食品ロス」。世界では毎年、生産される食料の3分の1に
あたる13億トンが捨てられているそうです。
朝日新聞デジタルのアンケートの声と、自治体の取り組みを
紹介します。

京都市が2012年秋に実施した食品ロスの調査では、マスクと
手袋をつけた市職員らが、家庭からのごみ袋をブルーシート上で
ほどき、種類を書いたラベルを貼ったバケツに分けました。

重量で見ると、捨てられたごみのうち4割が生ごみで、さらに
その39.4%がまだ食べられる、「食品ロス」にあたるそうです。
最も多かったのは野菜類で、肉類、魚介類、パン類、
ごはんなどが続きます。手つかずのまま捨てた「直接廃棄」が
半分あり、残りは食べ残しでした。

直接廃棄のうち、おいしく食べられる時期を示す賞味期限が
読み取れるものを調べると、3割は賞味期限前に捨てられ、
期限後2週間以内も3割ありました。

京都市ごみ減量推進課廃棄物企画係長の新島智之さんは
「『高齢で買い物の頻度が減り、まとめ買いが増えたので
食品が使い切れない』といった悩みや『子どもが自立し、
料理の適量が分からない』という声をよく聞きます」と言います。

食品ロスの調査は、長野県松本市も実施しています。
13年秋から冬にかけて計7日間、100戸の家庭から出された
生ごみの内容を調べました。食品ロスは、生ごみのうち3割。
皮むきなど調理の時に食べられるのに捨ててしまった部分が
14.5%、ごはんやおかずなどの食べ残しが11.1%。
手つかずの直接廃棄は4.5%で、このうち賞味期限つきが
56.6%で、期限を過ぎたら食べない方がいいとされる
消費期限つき食品28%の2倍ありました。

賞味期限つきのうち半分近くは、期限前か、期限後1カ月
以内に捨てられていました。松本市環境政策課主任の
丸山祐太郎さんは「同時期に行ったアンケートでは、
『消費期限と賞味期限の違いを知っている』という答えが
80%だったが、正しい理解が広まっていなかったかも
しれない」と言います。

京都市と松本市の数字の違いは、「過剰除去」の扱いと
いった統計の取り方の違いによるところが大きいようです。

環境省は今年3月、家庭から出る食品ロスについての
初めての全国調査を発表しました。食品ロス量を把握
するための調査を実施している市区町村は全体の3%でした。
環境省は、この調査を元に国内の家庭からの食品ロスを、
全食品ロスのほぼ半分の302万トンと推計しています。
食品ロスの実態把握や削減の取り組みは緒に就いた
ばかりです。

市民アンケートで京都市が「食品ロスを出さないために
気をつけていること」を尋ねたところ、多かったのは
「冷蔵庫内を買い物前にチェックする」(51%)、
「買い物メモを持参する」(43%)などでした。
市は、家庭の食品ごみを削減するため
@買った食品を使いきる
A食品を食べきる
Bごみを捨てる際に水をきることを、「生ごみ3キリ運動」と
して呼びかけています。

松本市は、毎月30日を期限の近い物や残り物を使い切る日、
10日を今までは捨てていた野菜の茎などを料理に

使う日とするよう、市民に呼びかけています。幼稚園、
保育園、小学校へ出前授業を実施し、子どもたちの
食べ残しが減ったといいます。子どもを通じて家でも
食品ロスが減るのを期待しているといいます。
(浜田知宏、神田明美)

■国連計画でも半減めざす

日本の食料自給率は、カロリーベースで39%。
G7(主要7カ国)で最低です。農林水産省によると、
年間約5300万トンの食料を海外から輸入しています。

食品ごみは家庭系と事業系を合わせて1676万トンで、
うち632万トンはまだ食べられるのに捨てられる
「食品ロス」なのだそうです。これは、日本人が年間に食べる
小麦の量に匹敵し、国連の世界食糧計画(WFP)が昨年、
飢餓に苦しむ人などに支援した食料320万トンの
2倍にあたります。

食品ロスは、日本の食料安全保障にも絡む問題なのです。

環境省は、家庭から出る食品ごみが年間870万トン、
うち食品ロスは302万トンと推計しています。手を
つけないまま捨てられる「直接廃棄」、厚くむきすぎた
野菜の皮などの「過剰除去」、「食べ残し」が、
ほぼ3分の1ずつとなっています。

全国の家庭から出るごみは年間約2400万トンで、
生ごみは約4割と言われています。市町村などは
一般ごみの処理に年間1兆9400億円を使っています。
1人当たりでは年約1万5千円です。市町村にとって、
食品ごみや食品ロスを減らすことは、倫理的な問題というより
経費節減という自治体の財政に直結する問題なのです。

食品ロス削減は、国際的にも大きな問題です。
昨年9月に採択された2030年に向けた国連の
行動計画「持続可能な開発目標(SDGs)」では、
「2030年までに小売り・消費レベルにおける世界全体の
1人当たりの食料の廃棄を半減させ、食品ロスを
減少させる」という目標が掲げられました。

この春に日本で開かれたG7の農相会合や環境相会合でも、
食品ロスは重要課題として位置づけられています。

 私たちの食卓は、世界につながっているのです。

■アンケートに寄せられた意見は

 こんな時に、食べ物を捨ててしまう。
そんな体験がアンケートに寄せられています。

●「野菜を一番捨てることが多いです。できるだけ保
存可能な根菜を購入し、生食はひとり分しか購入しない
ようにしています。それでも牛乳は飲みきれず捨て、
漬物系もよく残ってしまい捨てています。や
はり、また買えばいいや、とどこかで考えてしまっている

からでしょう。まずはこの意識をかえられるような
生活にしたいです」(東京都・30代女性)

●「安売りの食品を見るとつい買ってしまう。
その後冷蔵庫の奥深く入り込んだ食品はいつしか
忘れ去られ、冷蔵庫の余り物料理を作ろうと整理し
気付いた時には傷んでしまっている。毎日使うものだけ
買えばいいと分かってはいるのだが、ものぐさな私は
、3〜4日分の食材を買ってしまう。買った食材を冷凍
保存出来るよう工夫するといいのだが、加熱して食すより
生で食べる方が好き。冷蔵庫の中の物を使い切ってから、
買い物に行くことを心がける。安売りに飛びつかない。
今の私に出来ることは、この2点に尽きる」
(東京都・60代女性)

●「両親・祖父母から食べ物を粗末にするな、米粒は一粒
たりとも残すな、と言われて育ったので、消費期限切れの
食品を廃棄するときはいつも罪悪感を感じている。
ただ、もったいないからといって無理に食べて食中毒を
起こすのは馬鹿らしいので、割り切って捨てている」
(岐阜県・50代男性)

●「年寄りになると、安い時に買った野菜類が消化しきれずに、
傷んで捨てる場合があります。毎日買い物に行ければ
いいのですが、年金生活者には厳しく、特売日に買い物に
行き安くてうまいものを買う習慣がつき、消化しきれない
野菜があります」(北海道・60代男性)

●「冷凍庫に入れて忙しい時に食べようとするのですが、
半年後にそのまま捨ててしまうことがよくあります。
そのたびに、あーあ、と思います」(埼玉県・40代女性)

●「自分で買ったものは食べたいから買うのでそんなに
忘れませんが、頂いたものというのは意識の中にないので、
気がついたら消費期限が切れていたりします。
未開封ならまだしも、せっかく頂いたからと封を開けて
一度だけ食べてそれきりというパターンが多いです。
本当は、相手の好みをよく知っているのでない限り、
あまり食品は贈らない方が良いのかもしれないと思います」
(東京都・40代女性)

●「調味料:おいしいかと思って買ってもあんまり好みでないとき、
そのまま冷蔵庫に放置して消費期限が切れたら捨てる、
というケースがある。香辛料:珍しい料理を作るために
買った香辛料をその時だけ使ってほとんど残したまま放置、
そのまま消費期限切れになって捨てる、という場合もある。
(最近は小分けのスパイスも売られているので、少なくなったが)」
(兵庫県・50代女性)

●「仕事をしていると毎日買い物に行くのは不可能なので
買いだめをするが、特に野菜は保存のきく状態にする
下処理にまた時間がかかる。賞味期限や消費期限は
あまりうのみにしないで自分の鼻や目で確認するが、
毎日3食のための食品管理は想像以上に大変なこと。
かといって保存料がたっぷりの食品は避けたいという
ジレンマも。現代は冷蔵庫等の保存機能も充実しているし、
食べ物があふれているので、もったいない精神が欠如している」
(東京都・40代女性)

●「病気をしてから時々とても体調の悪い時がある。
食材を買ったのに調理できず、結局捨ててしまうことになる。
罪悪感と無駄になったお金と食材を思うと、とても落ち込む。
多少の日付は過ぎていても、においや見た目で食べるけれど、
時々自分に劣等感を覚える。悲しい」(千葉県・60代女性)


コメントです
食品の食べ残しの統計記事です。

苦手な方には興味がわかないかもしれませんが、
数字で発表していただくと、危機感を表示しやすいです。




posted by salsaseoul at 12:01| Comment(0) | TrackBack(0) | 環境

婚活サイトでトラブル続々 出資をしたら「さようなら」

朝日新聞 2016年8月23日


「婚活サイト」で知り合った女性に社債の購入や出資を持ちかけられ、
トラブルになるケースが相次いでいる。約束された配当は得られず、
交際に前向きだったはずの女性との連絡は途絶えてしまう。
結婚を望む人たちの出会いの場を利用した詐欺まがいのビジネス、
との指摘もある。

関東地方に住む会社員の男性(38)は今月3日、6人の男性と
ともに計約1億円の損害賠償請求訴訟を起こした。
相手は、婚活サイトでそれぞれ知り合った2人の女性や、
女性の勧めで購入した社債の発行会社など。詐欺容疑で
警視庁への告訴も考えているという。

男性は2013年3月、無料婚活サイトを通じて20代の女性と
出会った。東京・新宿の喫茶店で待ち合わせた女性は、
花柄の華やかなワンピース姿で指にはサファイアの指輪。
会社の秘書役で両親は投資家、と自己紹介した。

「イイ旦那さんになりそう」などとメールをもらい、交際が始まった。
3回目のデートで、「将来の2人のために」と、女性が役員を
務める人材派遣会社の社債購入を持ちかけられた。
男性は交際を続けるため、申込書に署名。
ほかの社債も購入し、計1千万円を支払った。

年12〜24%と説明された利息や配当はしばらく支払われたが、
間もなく停止。疑う気持ちはあったが、女性に「どんなことが
あってもパートナーとして行動します」とLINEのメッセージを送った。
しかし、女性から突然別れを告げる返信が届き、
連絡がとれなくなった。
「適当な言葉で慰めて、優しい自分に自惚(うぬぼ)れてる
だけでしょう。あなたは偽物よ。さようなら」

その後、同じ社債の購入で同様の被害を訴える記述をネットの
掲示板で発見。別の1人を含む女性2人が、少なくとも32人の
男性に社債を購入させていたことがわかった。交際していたはずの
女性が、同じ日に別の男性とデートしていたことも明らかになった。

男性らの訴訟代理人の佐藤嘉寅弁護士は「同じ女性が複数の
婚活サイトに登録し、同時期に複数の男性に社債を売っていた。
組織的な詐欺の可能性がある」と話す。男性が社債を購入した
会社の代表を務める男性は、取材に「名義を貸しただけ。
詳しいことは分からない」と答えている。

市場調査会社シード・プランニング(東京)によると、
「婚活サイト」の市場規模は12年の30億円から17年には
58億円に膨らむという。利用者を狙って出資や不動産の
購入を持ちかける「デート商法」は後を絶たないといい、
立正大学の西田公昭教授(社会心理学)は、「ネットの出会いは
紹介者がおらず、相手の素性が保証されない。
リスクを認識しなくてはいけない」と話す。
(小寺陽一郎、高田正幸)


コメントです

これ、残念ながら男性がしっかりと相手を見極めて
だまされないようにしないといけないですね。
本文にもありますが、詐欺氏女性が一日に何人も

掛け持ちしていたら、ちょっとした不振な動作で
わかると思います。



posted by salsaseoul at 11:09| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本・社会

理想と現実の差が生んだ悲劇(きょうも傍聴席にいます)

朝日新聞 2016年8月25日


「人助けがしたい」と強く願った男が空回りの果てに
行き着いたのは、殺人の罪だった。大学の再受験を
めざしていた恋人を手にかけた男が、法廷で語った言い分とは。


2016年6月20日、東京地裁725号法廷で開かれた
裁判員裁判の初公判。被告の男(26)は黒いスーツに
青ネクタイ姿で法廷に立ち、緊張した面持ちで起訴内容を認めた。

 被告「間違いありません」

起訴状によると、被告は昨年2月14日、東京都内の自宅で
交際していた女性(当時24)の首を絞めて殺害したとされる。

被告はなぜ恋人を殺してしまったのか。冒頭陳述や被告人
質問などから、事件の経緯をたどる。

被告は福島県出身。きょうだいと共に両親に育てられた。
法廷で被告は、幼い時から抱えていた悩みを明かした。

被告「6歳ごろからきつ音の症状があり、まわりの友達と
うまくつきあいができませんでした」

言葉が出にくかったり、同じ音を繰り返したりするきつ音。
母親は法廷で「被告が小学生の時に病院に行ったが、
問題はないと言われた」と証言したが、被告にとっては
大きな問題だったという。

被告「中学3年の壮行会で試合への抱負を述べる時、
きつ音のせいではじめから最後までうまくしゃべれなかった。
人生で一番の失敗。悔しくて苦しかった」

被告は「きつ音による負の印象を払拭(ふっしょく)したい」と
高校時代は東大を目指して受験勉強に打ち込んだという。
希望はかなわず、浪人して大学進学をめざしたが、断念。
アルバイトなどの後、2014年、地元・福島を離れて上京した。

弁護人「東京でどんな仕事をしたかったのですか」

被告「人の相談を聞いて、悩みを解決する仕事です」

弁護人「その仕事とは」

被告「探偵です」

契約社員やアルバイトなどで収入を得ながら、探偵事務所の
開業を目指した。両親から仕送りを受けることもあったという。

被害者の女性とはツイッターを介して知り合った。
大学卒業後、就職していた女性が、仕事をやめ、大学を
再受験しようとしていることを知り、被告は14年10月、
生活の支援を申し出た。

被告「生活面でも精神面でもサポートできるかもしれない。
支えてあげたいと思いました」

 弁護人「どうしてですか」

 被告「自分と似た状況なのに、大学受験を目指すという
前向きなところに共感しました」

 弁護人「自分と似た状況、とは」

 被告「社会的に弱い立場にあることです」

 被告は、ツイッターでのつぶやきから「女性は対人恐怖症」と
いう印象を持っていたという。まもなく交際が始まり、2人は
同居するようになった。生活費は被告が全額負担するという
約束だった。だが、被告には被害者に話していない借金があった。

 弁護人「借金はいくらあったんですか」

 被告「160万円ほどです」

 弁護人「なぜ借金を」

 被告「友人や以前勤めていた会社の先輩に貸していたのと、
半分は自分の生活費です」

 弁護人「なぜ借金してまで、先輩や友人に貸したのですか」

 被告「先輩や友人は他に頼れる人はなく困っていたので、
貸してあげようと思いました」

 結局、同居する中で、被害者に借金を知られてしまう。

 弁護人「被害者は何と?」

 被告「『本当に返済しきれるの?』と心配していました」

 弁護人「あなたはどう思っていたのですか」

 被告「返せると思っていました」

 アルバイトを掛け持ちし、早朝から深夜まで働いていたという被告。
15年2月3日には、探偵会社で正社員の試用期間として働くことに
なった。だが、働き始めて4日目の2月6日、被告は職場の
先輩の車を運転中に物損の追突事故を起こし、
約90万円を支払うことに。2日後、会社を休職することになった。

 被告「今後の生活について不安に思いました。
安定した生活ができるようになるのか、と」

 一方、女性は学費を準備できず、その年の大学受験を断念。
同じ頃、かつての勤務先の会社で働き始めた。
被告が借金の支払いができずに女性を頼ったことなどから、
仕事や金銭面での考えの甘さを指摘し、同居解消を
ほのめかしていた。

 そして、2月14日早朝。目を覚ました被告と女性は、
借金と生活費の話になる。

 弁護人「被害者からはどんな話を」

 被告「『借金は返済できるの?』
『この先、安定した収入は得られるの?』と。それを聞いて、
この先どうしたらいいのかと思いました」

 弁護人「被害者はなんて」

 被告「『見通しが甘いよね』と」

 女性は再び眠りについた。被告は横で思いをめぐらせたという。

 被告「これからの生活のことを考えていました。
いつもなら前向きに考えられるが、この日はできなかった。
人生を終わらせようという考えになりました」

 弁護人「被害者については」

 被告「1人にするのは心配で不安だと思いました」

 弁護人「そのほかは」

 被告「正直、自分ひとりで死ぬことへの恐怖もありました」

 被告は隣で横になっている女性の首に手をかけた。
女性は驚いた表情で両手を動かしたが、被告は力を緩めず、
両手で首を絞め続けた。

 殺害後、被告は2〜3時間はぼうぜんとしていたという。
午前11時すぎ、被告は被害者のLINEに
「ご帰宅は何時ごろです?」などとメッセージを送る。

 被告「警察に行って出頭しようと思いましたが、
自白できなければ失踪届を出そうと思いました。
(LINEは)自白できなかったときのために、
失踪届の参考になると思いました」

 結局、被告は午後になって警察署に行ったが自白はせず、
「彼女が帰ってこない」などと相談。
ただ、被告の言動を不審に思った警察官が被告とともに
自宅に行き、事件が発覚した。

 裁判官は殺害の動機をいぶかしんだ。

 裁判官「どうして首を絞めたのかが理解できない。
最初は自分1人で死のうと思ったんですよね?」

 被告「はい。(事件の)ほんの数分間の間に、
死のうとする気持ちの増大がありました」

 被害者の勤務先の上司の調書によると、被害者は
仕事も同僚とのコミュニケーションもうまく出来ていたという。
被害者は被告の借金などの問題から家を出ることを
検討していたが、「深刻な様子はなく、退社時も笑顔だった」と
上司は振り返る。

 質問は、被告が法廷で繰り返した「人を助けたい」と
いう思いにも及ぶ。

 検察官「事件前、あなた1人でも生活し切れていない状態でしたよね」

 被告「そうだと思います」

 検察官「そんな状態で被害者の生活をサポート
するのは無理だったのでは」

 被告「思いだけで動いていました」

 弁護人「弱い人を放っておけないのは、いつからですか」

 被告「きつ音の出始めた6歳ごろからです」

 弁護人「なぜ」

 被告「自分がきつ音の苦しさを経験するうちに、
他の人の苦しみも理解できたのだと思います」

 弁護人「彼女との関係ではどうですか」

 被告「自分という人間の限界を知りたいと思いました。
きつ音を持っていても、人並み以上に生活できる人間に
なりたいという思いがありました」

 被告の精神鑑定をした医師は、法廷で被告について
「自己愛性パーソナリティー障害」と指摘。「相手を弱者に
固定する傾向がある」といい、自分が借金をしてまで人に
金を貸す行為などを「人を救済したいという欲求のために、
人を利用している」と述べた。きつ音についても
「過度にとらわれすぎている」と言った。

 弁護人「何を間違えていたと思いますか」

 被告「他の人の生活をサポートできる人間で
ありたいと強く願いすぎた結果だと思います」

 弁護人「当時、何を受け入れられていなかったのだと思いますか」

 被告「等身大の自分です」

 被告の母親は法廷で、「親としてできる償いをしたい」と
被害者や遺族への謝罪を述べ、「私の体が続く限り、
何とか息子を更生させたい」と誓った。

 被害者の母親は、検察官に代読してもらう形で意見を述べた。

 「被告は私の一番大事なものを奪いました。
私は絶対許しません。娘のためにも、被告を死刑にしてください」

 6月22日。検察側は、「動機はあまりに身勝手で短絡的。
被害者に落ち度はない」として懲役17年を求刑。
一方の弁護側は、「突発的な犯行で、被告は事件当時、
疲労を蓄積し、精神的にも不安定だった」として懲役9年が
相当と主張した。

東京地裁は6月27日、被告に懲役14年の判決を言い渡した。
裁判長は「動機や経緯には必ずしも明瞭でない部分がある」と
指摘し、「自らの身勝手な判断から、何ら落ち度のない
被害者を殺害した。独りよがりで誠に理不尽な犯行だ」と
厳しく非難した。きつ音については触れなかった。

 判決は確定した。(塩入彩)




posted by salsaseoul at 10:56| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本・社会

2016年08月13日

私たちは「買われた」展 女子中高生のSOSを知って

朝日新聞  2016年8月9日

201608131.jpg
18歳の女性の手記。友人に誘われ、乱交パーティーに行ったことなどが
つづられている。「行く場所があるだけで安心してた」


援助交際や風俗、JKビジネスなどで「売春」をした中高生たちが、
自らの体験や思いを伝えたいと企画した「私たちは『買われた』展」が
11〜21日、東京都新宿区で開かれる。写真や文章、日記などを
通して彼女たちは訴える。
「私たちが、いま、ここで生きていることを知ってほしい」

主催するのは、居場所のない女子高校生らを支援する一般社
団法人Colabo(コラボ)と、コラボが支援する24人。1
4〜26歳の中高生や女性らで、北海道から九州で暮らす。
かつて立っていた街角、体をくっつけて暖を取った自動販売機、
リストカットを繰り返して傷だらけになった腕――。
自分の体験が深く関わる場所や場面を再現した写真のほか、
思いをつづった日記や絵、体験談など約100点を展示する。

関東地方で暮らす高校1年のあいさん(16、仮名)は中学生の
とき、母親と自分に暴力を振るう義父のいる家に帰りたくなくて、
新宿に出た。ひとりで下を向いて歩いていたとき、
男の人に声をかけられた。

 「ひとり?」。うなずいた。「お金欲しいんでしょ? 
あげるからついておいで」。怖くて体が固まった。
手を引っ張られ、そのまま部屋に連れ込まれた。
男がくれた5千円で上履きや文房具を買った。

あいさんは今回の企画展を準備する中、過去と向き合って
過呼吸になったり、涙が止まらなくなったりした。それでも多くの
人に企画展に来てほしいと願う。「断れなかった自分が悪いと、
ずっと自分を責めてきた。でも、そういうところに行くしか
なかったことをわかってほしい」

発案したのは、コラボにかかわっている20代の当事者の女性。
昨秋、戦時中のインドネシアで「慰安婦」とされた女性たちの
写真展を、コラボ代表の仁藤夢乃さん(26)と一緒に見に
行った。つらい体験を訴え、カメラをまっすぐ見据えた年老いた
女性たちの姿に圧倒されたという。「私たちも何かできないか」。
そこから輪が広がり、中高生を含む24人が参加を申し出た。
昨秋から少しずつ準備を進め、全国から寄付を募って
開催にこぎつげた。

仁藤さんによると、ある大学で学生たちに売春する中高生の
イメージを尋ねたところ、「快楽のため」「遊ぶ金がほしいから」
などの答えが返ってきたという。企画展は、そのイメージに
一石を投じたいとの思いも込められている。仁藤さんは
「中高生の売春は自己責任論でとらえられがちだが、
決して彼女たちだけの責任ではない。

彼女たちが買われるまでには背景や過程がある。
それを知ってほしい。暴力的な性行為も少なくなく、
彼女たちは心身ともにその傷を生涯背負う。女の子たちの
SOSに気づける人が増えてほしい」と話す。

新宿区矢来町158の神楽坂セッションハウス2階ギャラリーで、
正午〜午後8時(最終日は午後5時まで)。
入場料は一般1500円、高校生以下は無料。
詳しくはコラボのウェブサイト
http://www.colabo-official.net/別ウインドウで開きます)。
(編集委員・大久保真紀)

■当事者の女性たちの声(手記などによる)

「小さいころから母は帰って来ず、妹と2人暮らしだった。
家はごみ屋敷。お金はなく、駅前で物乞いをした。
中学生になって母が再婚すると、今度は暴力を振るわれた。
街で男に『どうしたの?』と聞かれ、事情を話すと
『おなか、すいているでしょ』と言われた。男はコンビニで
おにぎりを買い、手を握ってきて、家に連れ込まれた。
怖くて抵抗できなかった」(15歳、中学生)

「小学校ではトップの成績だった。名門校と言われる私立の

女子中学校に入ると、私より良い点数を取る人たちがいた。
親は『成績が悪い』と怒鳴り、私を殴り、蹴った。
学校でいじめられ、不登校になった。そんなころ、ネットで
知り合った男の人に『会いたい』と言われて、うれしかった。
カラオケに連れて行かれ、最後までした。2回売春した」
(18歳、高校生)

「私には知的障害がある。健常者の妹が生まれてから、
家族とは食事や洗濯なども別にされた。学校でもいじめられた。
誰にもほめられたことがなかった。ネットでやさしく声をかけて
くれた男と遊ぶと、ホテルに連れ込まれた。
男はコンビニで食べ物を買ってくれた。性を売るとほめて
くれる人がいた。必要とされていると思える気がした」
(21歳、フリーター)

「学校でいじめられていることを先生に訴えたが、
何も変わらず、不登校に。居場所は家にもなかった。
ネットで知り合った25歳の男性は、私の話を聞いてくれ、
私を否定しなかった。唯一の心の支えで、体だけでも
求められたのがとてもうれしかった。私の存在価値を感じた。
いまは後悔ばかり。あのとき私に逃げ場があれば、
男性と関係をもつことはなかった」(14歳、中学生)

「両親が離婚し、祖母の家で暮らしていた。中学2年から、
夜になると、おじが部屋に来た。家を出る高校2年まで
性的虐待を受けた。周囲に訴えても、誰も信じてくれなかった。
家にいたくなくて、15歳で夜の仕事を始めた。
雇い主から言われた指定の場所に行き、売春した。
週2回、乱交パーティーで5〜6人のおじさんを相手に
する仕事もした」(18歳、フリーター)


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展示される20歳の女性の写真。成人式で着た着物の袖から、
無数の切り傷とたばこの火を押しつけた痕がのぞく


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「ママも頑張ってるんだからアンタも頑張って我慢しなさい」。
あいさん(16、仮名)が親から言われた言葉を作品に書き込んだ


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「産まなきゃよかった」「迷惑だ」「だれの金で飯食ってると思ってんだ」……。
女性たちが親や先生などに言われて傷ついた言葉を書いた作品

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15歳の中学生が描いた絵。「死にたかった」などの言葉もある


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21歳の女性がつづった食事ノートと日記。「寂しくて誰かの温(ぬく)もりが欲しくて……。
自分に負けた」。援助交際の相手に買ってもらったお菓子などの写真も貼られている

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あいさん(手前)と企画展の打ち合わせをする仁藤夢乃さん




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2016年08月12日

アパート経営「30年保証」、破られた口約束 減額・解約、事前説明なし

朝日新聞 2016年8月11日

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 「家賃は保証」などと誘われてアパート経営に乗り出した
大家から、業者とのトラブルの訴えが相次いでいる。
国土交通省は「大家も事業者」として規制強化に
消極的だったが、訴えは今後も増えることが予想され、
ようやく対策に乗り出す。
だが、実効性を疑問視する声も出ている。

相模原市のJR橋本駅からバスと徒歩で約25分。かつては

雑木林だった場所にある2階建てのアパート2棟は7月上旬、
約3分の1が空室だった。

大家の女性(66)は14年前、大手賃貸住宅管理会社の
営業マンに勧誘された。「30年間の一括借り上げ保証です」と
繰り返しアピールされたが、「家賃は下がる」との説明はなかった。
女性は「家賃は30年変わらない」と思い込んだ。相続税対策も
兼ね、銀行から1億円を借り入れ、2棟を建てた。

当初の家賃収入は毎月約126万円。しかし、8年が過ぎた頃から
「周辺物件の家賃より高い」などと値下げを2回求められ、
今は約106万円。契約書を見直すと、「状況に応じて家賃変更を
協議する」といった趣旨の記載があった。女性は「あまりにも
知識不足で、業者の言うがままに従ってしまった。
更に減額されるとローンが返せず、アパートを手放さざるを
得ない」と嘆く。

千葉県茂原市の男性(62)も21年前、約1億円の借金をして
市内にアパート2棟を建てた。大手賃貸住宅管理会社に
よる「30年間一括借り上げ」。契約時には「4年目以降は
家賃を2年ごとに原則3%上げる」との説明も受けたという。

だが家賃は一度も上がらず、逆に6万円減って月約70万円に。
2008年秋のリーマン・ショック以降は入居率が下がり、
11年秋に同社からほぼ一方的に契約を解除された。
入居者は一斉に退去。約1年間は家賃収入がほぼゼロになり、
返済計画が狂った。

契約書に中途解約を可能とする条項があった。
男性は「契約時には解除の説明はなかった。相手は一枚も
二枚も上手のプロ。個人では対抗出来ない」と話す。

大手各社は「誤解のないよう丁寧な説明を心がけている」
「家賃更新時は(大家に)理解を得られるよう訪問して
説明している」などとコメントしている。

 ■元営業マン「世間知らず狙った」

「世間知らずで、プライドが高く、人に相談しなさそうな人を
狙った」。賃貸住宅管理会社の元営業マンはそう明かす。
特に「狙い目」だったのは教員や医者、公務員らだったという。

まとまった広さの土地が比較的多い埼玉や千葉などで集中的に
営業。「相続税対策」や「老後資金の確保」などのメリットを
語った。契約の際は大家を本社に招き、役員らと一緒に
食事をするなど最大限の歓待をした。
「いわゆる催眠商法のようだった」とも。

大家が「本当に家賃は下がらないのか」と尋ねても、
「下げるわけない」「信頼関係です」と言い張った。
10年目以降は2年ごとに家賃を協議する契約になっているが、
「大家には10年目までまったく説明しなかった」と振り返る。

別の賃貸住宅管理会社の元社員は「アパート建築の時点で
利益は回収できた」と語る。1億円のアパート建設を同社が
自ら請け負うことで40%の4千万円が利益になると証言。
大手ゼネコン関係者は「利益は10%が業界の常識。
40%なんてあり得ない」と驚く。

12年末の自民党の政権復帰後、相次ぐ金融緩和で市場に
資金が余っている。日本銀行は今年3月のリポートで、
サブリースをはじめとするアパートの大家向けへの、地方銀行や
信用金庫からの貸し出しがここ数年で急増していると指摘。
地方には有力な貸出先が少ないため、だぶついた資金が
回っている形だ。

折からの超低金利に加えて、昨年1月からは相続増税に。
業界では「有利な資産運用で、節税にもなる」といった
うたい文句で営業が過熱しているという。

元社員は「アパートは増え過ぎている。近い将来に
家賃トラブルはもっと増えるだろう」と話す。

 ■規制対象業者は1割

アパートのサブリースをめぐるトラブルに対して、監督官庁の
国交省は当初、規制に消極的だった。

アパートを経営する大家は「あくまでも事業者」とのスタンスからだ。
消費者の場合は業者が不利益な情報をわざと隠すなどすれば、
消費者契約法によって契約を取り消すことができる。
だが、「事業者」である大家は原則対象外だ。
国交省は「事業者間の契約は互いに納得の上で結んだもの。
民間契約に干渉できない」との立場だった。

一方、サブリースの問題に詳しい三浦直樹弁護士は
「プロの賃貸住宅管理業者と資産の運用を目的にした
個人の大家とでは、情報や交渉力に大きな格差があり、
大家は実質的には消費者に近い」と話す。

08年秋のリーマン・ショック後は、大家らからの相談が頻発した。
社宅として多くの部屋を借り上げていた企業がリストラを

進めたことで空室が激増、賃貸住宅管理業者が相次いで
契約解除などに踏み切ったためだ。こうした状況も後押しし、
国交省は現行制度の範囲内で業者に説明の徹底を求める
規制強化を決めた。

ただ、不動産コンサルタントの長嶋修さんは「説明を義務化
しても、結局は現場の運用次第だ。強引な営業や大家との
トラブルをなくすために、家賃の減額リスクは従来の
契約書とは別の書面を作るなど強調して説明することが
求められる」と指摘する。

また、新たな規制の対象になるのは国交省の任意の
登録制度に参加する3735社。大手業者の大半が参加して
いるとはいえ、全国約3万2千社の約1割
だ。
長嶋さんは「中小も含めてより多くの業者がトラブル防止を
徹底する仕組み作りが必要だ」と話す。
(峯俊一平、水沢健一、中村信義)

関連記事です。
「家賃保証」アパート経営、減額リスクの説明義務化



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「全室を一括で借り上げる」「家賃は保証する」と業者から誘われ、
借金までしてアパートを建てたものの、数年後に家賃を減額された
――。そんな苦情が相次いでいることから、国土交通省は
「将来は家賃が減る可能性がある」との説明を賃貸住宅管理
業者に義務づける制度改正を決めた。金融緩和を背景に
今後も相続税対策などからアパート経営に乗り出す人は
増えるとみられ、トラブル防止を目的に規制を強化する。

土地の所有者が建てたアパートなどを業者が一括で借り上げ、
入居者に貸し出す「サブリース」と呼ばれる契約が対象。
入居者集めや管理は業者が行い、空室に関係なく毎月一定の
家賃を支払う。不動産取引では通常、業者に様々なリスクの

説明を法律で義務づけているが、サブリースはその対象に
ならない。個人の大家も不動産事業者で、対等な業者間の
取引とみなされるため、消費者並みの保護の仕組みはなかった。

しかし、近年は個人の大家を中心に「契約時に『30年一括
借り上げ』『何もせずに安定した家賃収入』などと言われたのに
途中で強引に減額された」「業者から契約解除を要求された」
などの苦情が急増。日本住宅性能検査協会には
過去5年間に477件の相談があった。

そこで国交省は、同省の登録制度に参加する3735社に
対するルールを改正し、9月から施行する。これまでは、
将来的な家賃減額などのリスクを説明する義務は明示
されていなかった。これを契約時に口頭や書面で行うように
明記する。2018年7月からは違反業者を公表する。
同省幹部は「大家が『契約時に聞いていなかった』
というトラブルは減る」と話す。

ただ、この問題に詳しい三浦直樹弁護士は「説明の義務化は
一歩前進だが、プロではない多くの人が大家となっているのが
実情なので、より強く規制する法律が必要だ」と指摘する。

国交省によると、15年の新築賃貸住宅は37万8718戸で、
前年比4・6%増と4年連続で増加。近年の金融緩和で、
大家の資金調達が簡単になったことが背景にある。
また、遊休地にアパートを建てれば相続税の節税にもなる
ため、昨年1月の相続増税後は建設に拍車が掛かっている。

一方、全国に820万戸(13年)ある空き家のうち賃貸住宅は
429万戸と半数以上。国交省幹部は「需要に見合わない
アパート建設が空き家の増加につながっている」と指摘する。
(峯俊一平)

コメントです

バブルの時もそうでしたが、不動産業界は
「ババ抜き」のようなものです。
誰が最後にジョーカーをつかむか?

好景気な時は、ただ、みんなが転売を繰り返して、
そして最後に不良債権化してゲームオーバー。
現在は、誰もがリスクに敏感になっているので、
上記記事のような専門知識の乏しい地主が
狙われます。

そして、建設業者は立てたもの勝ち。
銀行は貸したもの勝ち。
管理業者はたくみな契約内容で絶対に
負債をかぶらないようにします。

そして、最後に地主がジョーカーをつかんで
ゲームオーバー。

こうような構造が成り立っています。
いくら法律で規制しようと思っても、
不動産業者は、まるで「振り込め詐欺集団」のように、
次の手を考えてきます。
このような、残念な現実がそこにあります。

















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2016年08月09日

(にっぽんの負担)公平を求めて 「お金ない」治療を断念

朝日新聞 2016年8月8日

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生活保護を受け、糖尿病の治療を再開した女性。
「お金がない。もう死んでもいいと思った」=埼玉県内の自宅

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国民健康保険の保険料滞納世帯は減少傾向だが、
国保世帯の2割弱が滞納している


「このまま帰る。何もしないで」

 救急で運ばれた時のことはなにも覚えていない。看護師らに
後日聞くと、こうくり返していたそうだ。

 3年前の夏のことだ。埼玉県三郷市に住む女性(63)は、
50代半ばから糖尿病を患っていた。だが、救急搬送される
1カ月前に血糖値を下げるインスリンの注射をやめ、その影響で
心臓の状態が悪くなっていた。

注射をやめたのは、お金がないからだった。

女性は19歳で結婚し3人の子を産んだが、40代で離婚。
その後は1人、パン工場や清掃工場のパートで生計を立てた。
10年ほど前、居酒屋で知り合った男性と同居を始めた。
その頃からだるさやめまいを感じ、仕事を続けられなくなった。
糖尿病と診断され、ほかの病気も含めた月の出費が
2万数千円にもなった。

数年後、同居の男性も腰痛で早期退職。退職金を切り崩して
暮らしたが、自分の医療費が悩みのタネだった。病気はだんだん
悪くなる。血液をきれいにする「人工透析」が必要になりそうだが、
とても負担できないと思った。

 「これ以上、もう迷惑かけられない。長生きしたって仕方ない」

インスリンをやめてから、めまいがひどくて立てなくなった。
寝たきり生活になり、体重が20キロ減。1カ月ほど経った深夜、
体の震えで目を覚ました。心臓を中心に体の左半分ががくがく
震えた。もう終わりだ。広告の裏に走り書きした。
〈無縁仏にお願いします〉。台所で突っ伏しているのを
男性が見つけ、119番通報した。

搬送されたのは、千葉県流山市の東葛病院。女性が治療を
受けている間、病院の医療ソーシャルワーカー、柳田月美さんが
男性に切り出した。「本人は帰りたいと言ってますが、
このまま退院したら命はありません」

男性は絶句した。「そんなに悪いんですか! 高血圧としか
聞いてなかった」。貯金はほとんど底をついていた。
柳田さんのすすめで生活保護の受給を決めた。数日後、
病室で目を覚ました女性は、男性から「金の心配はするな」
と聞き、涙を流した。

いま、女性は退院し、週3回透析治療に通う。生活保護を受け、
必要な医療は受けられる。容体は安定した。助けてもらったのは
ありがたいが、こうも思う。「私なんかが生きちゃっていいのかしら。
だって医療費も税金。病気の人は大勢いる。私の分をほかの人に
回してあげなきゃいけないんじゃないのかな」

 ■制度知らず、手遅れも

東葛病院では、受診を我慢してしまったことで手遅れになった
可能性がある患者もいた。

警備会社に勤める50代女性=千葉県流山市=は2014年
11月の末、胸の痛みに耐えきれず、病院を訪れた。胸のしこりから
ウミが出て、異臭がしていた。しこりに気づいたのは3カ月前の8月。
放っておいたら、食事がのどを通らないほど痛くなり、
救急を受診したという。

医師は「乳がん」と診断。すぐに抗がん剤治療を始めようと
したが、女性は「仕事を休みたくない」と言って治療をためらった。

ソーシャルワーカーの豊田恵太さんが暮らし向きを聞くと、
「仕事が生きがい」という理由のほかに、お金の問題が
あることもうかがえた。

しばらく前に夫と離婚し、子どもと2人暮らし。ショッピングモールの
警備をしていた女性の月収14万〜15万円が一家の主な収入だった。
アパートの家賃5万3千円をひくと日々食べていくのがやっとで、
貯金はほとんどゼロだった。国民健康保険料も滞納し、保険証は
交付されず、国保の「被保険者資格証明書」を持っていた。

保険証があれば病院での窓口負担が3割だが、資格証明書の
場合いったん窓口で医療費全額を支払う必要がある。
大金を工面することは女性には難しかった。仕事を休めば
1日分給料が減るのも、受診を控えた理由だった。

豊田さんのすすめで生活保護を申請。治療を始めた。
だが、半年以上の治療も実らずがんは肝臓などに転移した。
昨年秋、これ以上の治療が難しく、医師から「余命2カ月」と
言われた。

「私が我慢しちゃったからいけなかったんだよなあ」。病院の
談話室で、いつもは明るい女性が寂しそうな表情を豊田さんに
見せた。昨年11月、息をひきとった。

お金がなくても受診できる仕組みはある。生活保護の利用者は
必要な医療費が行政から支給される。生保受給者でなくても、
貧しい人に対して医療費の自己負担分を減免する
「無料低額診療」という制度もある。東葛病院も、
無料低額診療を行っている。

だが、亡くなった女性はこれらの制度を利用できていなかった。

豊田さんは「まだ腫瘍(しゅよう)が小さい段階で受診していれば、
女性はがんの摘出手術ができたかもしれない」と受診が
遅れたことを悔やむ。「無料低額診療や生活保護制度を
周知していかなければ、貧しい人が医療にかかれない
ケースは今後も続いてしまう」と危惧する。

 ■「国民皆保険」にほころび

「国民皆保険制度」にほころびが見える。誰もが国民健康
保険や「協会けんぽ」などの公的医療保険に加入し、
1〜3割の窓口負担を支払えば必要な医療を受けられる
という仕組みだ。

だが、実際には保険料が払えないために正規の保険証を
持っていない人や、保険に入っていても窓口負担が払えず
受診していない人が、少なからずいる。受診の回数を
減らしたり、高額な治療を断ったりする人もいる。

民間シンクタンク「日本医療政策機構」の08年の調査では、
1年間に費用が理由で医療を受けなかった経験がある人は、
世帯年収800万円以上かつ金融資産2千万円以上の
人々で18%。一方、年収と金融資産ともに300万円
未満の低所得層は39%だった。

収入や資産が少ない人々にも最低限の生活を保障するのが
生活保護だ。だが、生保を受けられる世帯のうち、実際に
保護を受けている割合(捕捉率)は1〜3割程度とされる。

貧困問題に詳しい都留文科大学の後藤道夫名誉教授の
推計では、世帯収入は保護の基準以下なのに実際は
保護を受けていない人は国内で2千万人前後に上る。
後藤氏は「多くの人々が福祉制度のすき間にいる。
病気にかかった場合、受診をためらう人がたくさんいるはずだ」と
指摘する。

 ■<解説>安全網の構築が不十分

 貧しさが理由の「受診抑制」が見受けられる現状は、
セーフティーネット(安全網)の構築がいまだに不十分な
ことを示している。急いで改めるべきだ。

 最後のとりでは生活保護だが、幅広く貧困層をカバー
できているかは疑問だ。収入が少なくても、一定の貯金が
あったり、車などの資産を持っていたりすると受給資格外と
される実態がある。条件がそろっても偏見をおそれ、
申請しない人もいる。立命館大の唐鎌直義教授
(社会保障論)は「英国の捕捉率は8割超。資産や貯蓄の
条件を緩和して生活保護を受けやすくするべきだ」と指摘する。

その上で生活保護にかからない人の医療をどう確保するか。
唐鎌氏は「収入が少ない人の保険料負担を引き下げたり、
医療費の窓口負担額を軽くしたりする仕組みを進めるべきだ」。

受診抑制はお金の問題だけではない。東京大学の
橋本英樹教授(公共健康医学)は「むしろ本当に必要なのは、
病気の人に様々な支援制度を知らせて受診につなげる
社会的なサポート体制だ」と話している。

 (牧内昇平)






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2016年08月08日

遺伝子改変し、蚊を駆除 米で計画、賛否問い住民投票へ

朝日新聞 2016年8月8日

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遺伝子改変した蚊を自然界に放して、ジカウイルス感染症(ジカ熱)や
デング熱を媒介する野生の蚊を駆除する計画について、米食品
医薬品局(FDA)が5日、「環境への重大な影響は見られない」とする
最終見解を発表した。米フロリダ州で実施が予定されているが、
反対意見もあり、地元では賛否を問う住民投票が実施される。

ジカ熱やデング熱のウイルスを媒介するネッタイシマカに、
自然界では2日ほどしか生きられない「致死遺伝子」を
組み込んだオスを大量に放つ。
オスは死ぬ前にメスと交尾するため、メスが産んだ卵は、
致死遺伝子の影響で、成虫にはなれずに死ぬ。いずれは蚊の
集団全体が駆除できるという仕組みだ。
人の血を吸うのはメスで、オスは無害という。

フロリダ州南端のフロリダキーズ諸島で蚊の対策を担当する当局が、
技術開発をした英オキシテック社と共同で、キーヘイブン地区での
実施を計画している。地区一帯では数百世帯が暮らしている。

FDAは見解のなかで、放される蚊はほぼすべてオスで、人や
動物を刺さないため直接の健康影響は考えられない
▽仮にメスが混入して人や動物を刺しても、遺伝子改変による
中毒やアレルギーなどの悪影響がでる証拠はない
▽放された蚊がデング熱などの感染症を拡大させることはない
▽生態系への影響も考えられない、などとして、同社が提出した
環境影響評価を支持した。

ただ、米メディアによると、地元では「長期的な影響が検証されて
いない」「遺伝子改変した蚊を使わなくても(ジカ熱などの)
感染を防ぐ手段は他にもある」などの反対意見もある。
そのため地元では11月に計画の賛否を問う住民投票が実施される。

同社は、すでにブラジルやパナマなどで駆除試験を行っており、
蚊を放した地区では9割以上の蚊を駆除できたとしている。
殺虫剤による駆除より低コストで、薬剤耐性をもつ蚊が生まれる
心配もなく、効果が期待できるとしている。(ワシントン=小林哲)

コメントです。
一種の生物農薬ですね。
蚊にかぎらず、農作物をくいあらすバッタやイナゴを駆除するために
技術開発が確立されています。
最近あまり聞きませんでしたが、ここで伝染病媒介対策として
採用されたようです。
さて、焦点は自然界への影響。正直、いまさら自然保護といっても
「人間」自体が自然界では「異物」ですから、検証程度の議論した
進まないでしょう。
いずれにしても、ひとつの種を絶滅まで追い込むことができる「人間」。
議論を重ねながら暗中模索していくしかないですね。




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