
過去10年間の子どもの死/解剖記録からみた子どもの死因/予防につながる要因がある死
小さないのちを守りたい――。睡眠時の窒息、浴室での溺れ、
転落などで、子どもの命が失われている。痛ましい虐待や自殺も
後を絶たない。朝日新聞は、過去10年間に亡くなった子どもの
うち約5千人について、原因などが書かれた解剖記録を専門家と
分析した。約1900人の記録から、今後起こりうる事故や虐待を
防ぐための手がかりが見えてきた。
「母親の腕枕で就寝。目を覚ますと母親の左腕が覆いかぶさり
意識がない状態」。2014年に亡くなった0歳男児の記録からは、
母親の添い寝中に起きた窒息だったことが読み取れた。
同じ年には、家族4人が「川の字」で寝ていたところ、0歳男児に
きょうだいが覆いかぶさり、亡くなった。分析では、添い寝や
川の字で寝ていて亡くなった例が110件あった。
また、窒息などを引き起こす危険が指摘されている「うつぶせ」
状態も240件あった。その8割近くは、まだ寝返りを打つのが
難しいとされる「生後180日以内」だった。
このような睡眠時の事故は全体で469件あり、分析した中で
最も多かった。リスクを減らすには、うつぶせ寝ややわらかい
寝具を避けたり、なるべくベビーベッドを使ったりすることが
有効とされる。こうした情報が社会でさらに共有されていけば、
同じような事故を減らしていくことができるかもしれない。
今回、分析を試みたのは、05〜14年に行われた
司法・行政解剖のうち14歳以下の子どもの記録4952件。
事件性の判断や死因の解明のために解剖されたもので、
亡くなった子ども約4万6千人の約1割にあたる。記録は
法医学者の間で研究用に共有されており、非公表だ。
氏名などの個人情報はなく、原因や状況がある程度記されている。
事故予防に詳しい山中龍宏医師、日本子ども虐待防止学会長の
奥山真紀子医師の協力を得た。日本小児科学会は今年、
東京などの368の死亡例を、予防につながる要因があるか
どうかの観点で試行的に分析しており、その手法や、子どもの
死の検証制度がある海外の事例などを参考にした。
その結果、今後起きうる事故の予防につながる要因が
読み取れたのは849件。睡眠時に次いで多かったのは
浴室やプールでの溺死(できし)、転落・転倒、食べ物を
気管に詰まらせる誤嚥(ごえん)などだ。
一方、虐待や無理心中、自殺など、社会的な対応に
よっては防ぎうる要因を見いだせる記録も1067件あった。
うち379件と最多だったのが、出産直後の赤ちゃんを
遺棄するなどの「産み落とし」だった。
産み落としの全体を把握する国の統計はない。
■<視点>海外には検証制度
いまの社会はまだ、一人ひとりの子どもの死ときちんと
向き合えていないのではないか。
「子を失うと親は自分を責め、周囲からも責められる。
でも一番つらいのは、うちの子の存在がなかったことになること」。
取材した多くの遺族たちの思いだ。責任を追及することよりも、
子どもの命を少しでも守るためにできることを考えたい。
米国や豪州などでは、事故や虐待、自殺などによる子どもの
死亡について、医療機関や捜査機関などが情報を持ち寄って
検証する制度が定着している。予防につながる要因がある
ケースを「プリベンタブル・デス(予防可能な死)」ととらえる考えが
広がり、事故などを減らす対策や啓発活動につなげている。
日本には、こうした検証制度はまだない。厚生労働省の人口
動態統計によると、子どもの事故死は減りつつあるとはいえ、
同じような事故が繰り返されている。厚労省研究班の11年度の
報告書によると、日本の新生児の死亡率は先進19カ国で
最も低い水準だが、1〜4歳児では中位になってしまう。
今回分析した記録では、死に至る経緯が比較的詳しく
書かれている一方で、家庭環境などの情報はほとんどなく、
検証には限界があった。私たちの分析も十分とはいえない。
政府は6月、事故死の情報を共有・分析する連絡会議を
立ち上げたが、本格的な検証制度づくりを考える時期に
きている。(板橋洋佳、座小田英史)
◇かけがえのない子どもの命について考える企画
「小さないのち」を始めます。
コメントです
こどもの事故死の記事です。
事例について少しでもデータベース化を
進めて、防止策を強化して欲しいですね。