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2016年07月27日

(分断世界)怒り利用、現状打破 民意、ネットで増幅

朝日新聞 2016年7月26日


外国、移民、エリート、既存政治家。誰にでも分かりやすい
「敵」を指し示し、「国を取り戻す」。

そんな「敵を指さす言葉」は強い力を持つ。まるで劇薬だ。

欧州連合(EU)離脱を巡る英国の国民投票では、EUが
「敵」となった。国論を二分する争いの中、EU残留派の
ジョー・コックス下院議員が殺害された。

国民投票前日、ロンドンのトラファルガー広場。コックス議員の
追悼集会に参加したシンクタンク研究員のステファノ・フェラ氏は、
「敵」が求められる理由をこう語った。

「格差や生活難の原因は簡単には説明できない。
でも人々は単純な答えを知りたがる。白か黒、敵を
はっきりさせる言葉を選ぶ」

5月下旬、メキシコ国境の街、米カリフォルニア州
サンディエゴ市では市民数百人が罵倒し合った。

ドナルド・トランプ氏の支持者と反対派だ。警察が隔てる
一方は白人、もう一方は非白人ばかり。
「国境に壁を建てろ」というトランプ氏の言葉が、人種間に
壁を作っていた。トランプ氏への抗議活動を企画した
弁護士のアナ・ハイセルさん(41)は嘆いた。

「トランプ氏が移民を攻撃するのは、貧困のふちにいる
中流の怒りを利用するためです。怒っている人が
聞きたがる言葉を語っている」

「敵を指さす」のは、右派だけではない。英国でEU離脱が
決まった日、スペインの左派新党「ポデモス」が開いた
選挙集会には支持者ら1万人以上が集まった。
「今の政治家たちは腐敗しきっている」。集会は5時間
以上に及び、午前0時近くにパブロ・イグレシアス書記長が
登場した。ポデモスは「怒れる者たち」という市民運動から
発し、数年で第3党に急伸した。

「スペインの中流層は、もう消えた」。
経営するリフォーム会社が倒産したマリア・ホセペコさん
は集会後に熱く語った。「今の政治家は私利私欲ばかりの
特権階級になった。庶民はみな猛烈に怒っている」

今回の取材で訪れた国々で繰り返し聞いたのは
「ステータス・クオ(現状)の打破」という言葉だ。

「今あるものを壊すこと自体が目的の投票が広がっている」。
スペインのジャーナリストの言葉が、現状を言い当てていた。

     *

各国で同時進行する民意の反乱には、燃え広がる
「速さ」に共通点がある。

米大統領選で急速に支持を広げた「社会主義者」
バーニー・サンダース氏には「ネット部隊」がいた。

その一人、デジタルマーケティングが本職の
チャールズ・レンチナーさん(47)とニューヨークで会った。

源流は5年前。巨大な格差に怒る人々が金融の中心
・ウォール街で抗議の声を上げたオキュパイ(占拠)運動
だった。その怒りを票につなげられなかったことを悔いていた。

仲間とサイトを立ち上げた。人々の思いをフェイスブックや
ツイッターなどのSNSで増幅し、ボランティアを募る。
運動はすぐに彼らの手を離れ、若い世代に爆発的に広がった。

 手法は世界に広がる。

 日本にもつながった。

 月、大統領選で全米最初の党員集会が開かれた
アイオワ州に、現地のすし店で働く山本雅昭さん(27)が
いた。「サンダースの選挙運動は、常に市民に囲まれていた。
『そうか、私たちも状況を変えられるんだ』と思った」

2カ月後に帰国した山本さんは、学生団体「SEALDs
(シールズ)」のメンバーとして、まず北海道5区
衆院補選で野党統一候補になった池田真紀氏の選
挙運動にかかわった。

池田氏を支持した石狩市議の神代(くましろ)知花子さん
(38)は「私たちの選挙が家内制手工業だとしたら、
彼らはベンチャー企業だった。スピード感がまるで違う」と
驚きを振り返る。会議で出たばかりのアイデアを
「LINE」で共有し、瞬時に候補者の動画やメッセージを
全国に拡散させる。

 今回の参院選で、山本さんは東京選挙区の
民進党・小川敏夫氏の陣営に加わった。SNSでボランティア
電話部隊を指揮。街頭演説も絵になるようコーディネートし、
ネットに流した。「サンダース氏の手法を使って、一票に
近づける増幅装置の役割を果たせたのでは」と山本さんは
言う。

「一度経験すれば次からは簡単だ。次のチャンスには、
すぐに態勢ができあがる」。そうニューヨークの
レンチナーさんは言った。

「格差をなくせ」と主張する左派でも、「我が国第一」を
唱える右派でも、それは変わらない。

民意は、次に火が燃え上がる瞬間を待っている。

 ■問われる代議制民主主義

 「勝手に決めるな」

東京の国会議事堂前で、10代の若者たちがコールして
いるのを聞いた。主張や背景は全く違っても、多くの国の
有権者が今、そう叫んでいるようだ。世界の政治家たちが
同じ言葉を叫んでいるように。

なぜ先進各国で、人々は既存の政治にノーを突きつけ始めたのか。

冷戦崩壊後、途上国の貧困層と各国の富裕層は大きく
所得を伸ばした。その一方で、先進国の中間層の伸びは
極めて小さい。グローバル化による負の影響を最も強く
感じているのが、この層だ。各国経済を担い、政治の
安定を支えていた人々がやせ細り続けている。

この難問に、今ある政治は解決策を示せていない。
「政治は限りない利害調整であり、政権を取ると歯切れは
悪くなる。一方で劇的に変えて欲しいという民意は強まり、
既成政治家は見放される」。政権交代を経験した
長妻昭・民進党代表代行はそう語る。

支持を集めるのは「敵を指さす強いリーダー」だ。

「人々の不満を吸い上げ、今の政治は間違いで正しいのは
あなただと断言する。この手法は世界各国、右派も左派も
変わらない」と言うのは、ポデモスが生まれた舞台である
マドリード・コンプルテンセ大学のホルヘ・ビルチェス教授だ。

民意の反乱は、分断を強めて現状を破壊するだけなのか。
それとも変革の引き金となるのか。

「各国で起きているのは、従来と違う回路で民意を実現しようと
殴り込みをかける動きだ。その異議申し立てを受け、
代議制民主主義が自己変革できるかどうかが鍵となる」と
吉田徹・北海道大教授は説く。

日本でも同じことが起きる条件はそろっているように見える。
「先進国に共通する分母は確かにある。民意は、誰かに
名付けられるのを待っているのだろう」

過激な言葉でEU離脱を扇動した英国独立党(UKIP)の
ナイジェル・ファラージ党首は国民投票の夜に言った。
「(反EUの民意という)魔人はランプから出てきた。
元には戻らない」

投票という手によって、魔法のランプから飛び出し、
これまでの枠組みをたたき壊す。神にも悪魔にもなりうる、
そんな「魔人」が世界をさまよっている。

 (ニューヨーク支局長・真鍋弘樹)

 ◇格差の拡大、人の移動、政治の不安定……。
先進各国の足元に大きな亀裂が走っている。
世界で同時進行する分断の風景を訪ね、点
と点を結んで問題の根源を探る。




posted by salsaseoul at 07:01| Comment(0) | TrackBack(0) | その他