迎えてから、3カ月が経とうとしている。人質解放をめぐり、日本や
ヨルダンの関係者らはどのように動いたのか。
人質の家族が身代金をめぐりISとやり取りしたメールや
イスラム過激派に詳しい現地研究者らの証言など、新たに
明らかになった経緯をもとに検証する。
■メールで支払額を提示 IS拒否「話にならない」
ISが1月20日に会社経営者湯川遥菜(はるな)さんと
フリージャーナリスト後藤健二さんの拘束映像を公開する前、ISとの
交渉の焦点は、後藤さんの妻による身代金をめぐるやり取りだった。
政府関係者によると、妻がISからの英文のメールに最初に
気付いたのは昨年12月3日だった。そこには
「前にもメールを送った」と書かれていた。
11月下旬には「夫を拘束した」という最初のメールが来ていたが、
「迷惑メール」に分類されていたため開封されなかったという。
ISは妻にメールで身代金の支払いを求めてきた。一方、日本政府は
妻に、政府として身代金の支払いには応じない方針を伝えた。
妻は後藤さんの知り合いだった豪州在住の危機管理
コンサルタントらと相談し、身代金の要求に独自に応じる考えを
ISにメールで返信した。妻がISに提示した金額は、
日本円に換算して億単位だったという。
後藤さんはシリアに渡る際、誘拐事件に巻き込まれた場合に
保険会社が身代金を代わりに支払う「誘拐保険」に加入していたと
いい、その保険を使って、身代金の支払いに充てる計画だったとされる。
だが、ISは「話にならない」などと妻からの打診を拒否。
「1500万ユーロ(約20億円)」の支払いを求め譲らなかったという。
妻とISは1月中ごろまで、身代金をめぐるやり取りを何度か続けた。
政府はこの間、メールの内容をほぼ把握していたが、妻や
コンサルタントと交渉内容をめぐって具体的な調整をすることは
なかった。
■首相声明、数種類を用意 政府
菅義偉官房長官は、後藤さんたちを拘束しているのがISだと
確信したのは「1月20日」と説明している。だが、複数の政府
関係者は、安倍晋三首相が中東歴訪に出発する1月16日よりも
前に、メールの発信元などからISによる犯行の可能性が極めて
高いと認識していたと証言する。
国家安全保障会議(日本版NSC)の事務局である国家安全
保障局は、ISが人質の拘束映像を公開する1月20日より前に、
ISの犯行を前提にして人質が殺害された場合などに首相が
出す声明文を数パターン用意していたという。
だが、官邸幹部は中東歴訪の取りやめなどは「全く考えなかった」と
話す。急きょ日程を変更すれば、テロに屈したとのメッセージを
発信することになりかねないためだったという。
首相は17日、訪問先のエジプト・ カイロで、「ISIL(ISの別称)と
闘う周辺各国に総額で2億ドル(約236億円)程度、支援を
約束する」と演説した。これに対し、ISは20日に公開 した
映像で「ISと闘うために2億ドルを支払うという馬鹿げた
決定をした」として、人質2人の解放に首相が表明したのと
同じ額の2億ドルの身代金を突きつけた。
後藤さんを殺害したとする映像が公開された4日後の2月5日、
首相は参院予算委員会で「国連決議があるから、テロリストに
お金を国として払うことは決議に反することになる」と強調した。
国連安全保障理事会は2014年1月、加盟国がテロ組織に
対する身代金の支払いに応じないよう求める決議を採択した。
一方、決議を守らなかった場合の明確な罰則規定はない。
14年11月に安保理に提出された報告書によると、ISが
最近1年間で得た身代金の推定額は約41億〜53億円に
のぼり、「水面下の交渉」が行われているのは
「公然の秘密」と言われている。
■「日本、なぜヨルダンを頼ったのか」
ハサン・アブハニヤ氏(イスラム過激派研究者)
中東の研究機関などでイスラム過激派の研究活動を行い、
アラブ圏で著名なヨルダン人の専門家ハサン・アブハニヤ氏は、
日本政府関係者の情報収集にも協力した。
日本人人質の映像公開前に「ISの犯行だ」と伝えていたといい、
「日本はヨルダンに頼るべきではなかった」との立場だ。
*
――ヨルダンは日本からの解放交渉の依頼を
引き受けるべきではなかったと考えるのはなぜか。
ISに自国民の人質を取られていたヨルダンが日本のために
出来ることは少ない。自国軍パイロットと日本人の運命を
結びつけるべきではなかった。
日本も、ヨルダンがISとの間に問題を抱えていると知りながら、
なぜ頼ったのか。なぜトルコを頼らなかったのか。
日本もヨルダンも、対処を間違った。
――事件をめぐる日本政府の対応をどうみるか。
殺害予告までの間、何をしていたのか。本当に解放したいなら、
(解放に成功した)トルコやフランスのようにISと交渉すれば
出来ていた。安倍首相の(カイロでの)演説も、私ならISを
あまり挑発しないように助言していた。
――日本政府は、ISが犯人と確信したのは、日本人2人の
映像が公開された1月20日と説明している。
映像公開の約1カ月半前の12月ごろ、日本政府の担当者が
私を訪ねてきた。彼は人質がシリア、特に(ISが首都と称する
)ラッカのある地方で拉致されたと知っていた。
私はISの犯行だと言った。なぜ、もっと早く動かなかったのか。
――日本政府はどうすれば、良かったのか。
私はフランスの人質解放交渉で、仲介役の一人だった。
フランスは複数の交渉ラインがあり、一つがうまくいかなくても
他が機能する。政府が表立って交渉するのではなく、水面下で
インテリジェンス(諜報〈ちょうほう〉)のチームに対処させた。
スペイン、トルコも解放のために金を払ったという情報を、
ISと関係のある宗教指導者などから得ている。
――身代金を払えば、ISの組織拡大につながり、再び日本人が
狙われる恐れもある。それでも払うべきだったと考えるか。
私は払うべきだったと思う。ISが理解するのは、民主主義的な
外交ではなく、金と取引の言葉だけだ。テロ組織との交渉に
選択肢は多くない。国民を救うために金を払うか、断って
殺されるかだ。現にISは映像公開前に後藤さんの妻に
(身代金を求める)連絡をとっていた。政府が金を払って
人質を救出することもできたのではないか。
■誘拐保険「1日10万円」 後藤さん、出国前に語る
後藤さんはシリアへ向かう2週間前の昨年10月8日、
TBSの情報番組「ひるおび!」に出演した。現地取材に
基づくISの現状を説明する中で、自らが現地入りする際には
掛け金が1日約10万円の誘拐保険に加入していると話していた。
後藤さんは番組で、ISの収入源の一つである身代金について
「これまでに例のないような途方もない金額が請求されている」と
指摘。「60億円とか、フランスの4人で」と具体例を挙げていた。
さらに、「フランス、ドイツ、ベルギーやオランダ政府は、
払うという基本方針」との見方を披露する一方、
「米国英国は払わない。保険に入っていればカバーしてもらえるが
保険に入っていないと払われない」と保険の存在に言及。
「1日だいたい10万円くらいかかり、掛け捨て。
僕が使っているのは英国の会社」と説明した。
さらに、イスラム過激派に ついて「(米軍などによる)空爆が
始まってから非常にセンシティブ(敏感)になっている。
外国人に対してスパイ容疑をかけてくる」と話し、外国人が
現地に 入るリスクが高まっている現状を説いた。
また、「持ち物は徹底的に調べられるし、なぜここに来たのか
という明確な理由が説明できないと、一晩、二晩、三晩 と
拘束されることになる」と語っていた。
■<視点>政府の対応、十分だったか
ISによる邦人人質事件で、日本政府はいかなる情報をもとに
どのように対応したのか。この間、朝日新聞は取材班を組み
、国内外で取材を続けてきた。
これまでの取材でわかったのは、自国軍パイロットの解放に
向けてISと交渉を進めていたヨルダン政府に、日本政府が
かなりの部分を頼っていたことだ。また、後藤さんの解放に
つながる可能性もあった身代金をめぐる交渉で政府は直接の関与を
せず、後藤さんの妻が前面に立ってISとの交渉に当たっていた。
相手は卑劣極まりない過激派組織であり、「テロに屈しない」と
する政府の対応そのものを非難することはできない。
ただ、トルコ政府などヨルダン以外の国との連携はどれだけ
探っていたのか。政府による後藤さんの妻ら家族への
関わり方は適切だったのか。
同じような結末を二度と繰り返さぬために、5月中にも
報告書をまとめる政府の検証委員会がどのような答えを
出すのかに、目を凝らしたい。
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