昨年夏以降、原油の国際価格は急速に下落し、指標となるテキサス産
軽質油(WTI)の価格は、1バレル=40ドル台で推移しています。
これは一時、110ドル近くに達していた昨年6月の水準に比べると
約6割も安くなっています。
シェール革命 vs. OPEC価格戦略
価格下落の原因の一つは、欧州や日本など主要国経済の低迷と、
中国など新興国経済の減速で世界的な原油需要が減少し、
「供給過剰」の状態に陥っているこ とがあげられます。
これに昨年11月下旬のOPEC(石油輸出国機構)総会での
減産見送りが重なり、産油国は価格下落を容認したとして、
原油価格は下落を続けています。
今回の価格下落局面で指摘されているのがアメリカのシェール革命と
OPECの価格戦略との「対決」です。アメリカはシェール革命で原油に
代わるシェール オイルの生産が増え、以前のように中東から大量に
輸入する必要がなくなったためエネルギーの中東依存が減っています。
このため、原油の市場シェアを失うことを恐れたOPECの盟主
・サウジアラビアが、1バレルあたり50ドルから80ドルとされる
シェールオイルの生産コストを下回る水準に原油価格を誘導 し、
採算割れで生産を成り立たなくさせるという見方です。
いわば「シェールつぶし」です。
市場価格の下落をあえて容認し、OPECの市場支配力を維持すると
いうシナリオと見る向きがあります。
しかしこれは「もろ刃の剣」ともいえます。価格下落で困るのはOPEC
自身でもあるからです。原油価格が下落すれば産油国の石油収入は
減少します。世界最大の産油国サウジのように豊富な外貨準備を持ち、
財政的な体力がある国はまだいいですが、OPECの中でもベネズエラの
ような国は財政基盤が弱く、石油収入が減ると経済を直撃し国民生活
が困窮する事態に陥りかねません。
シェールつぶしは産油国側にも影響
国によって原油の生産コストは異なりますが、国際通貨基金(IMF)による推計では、主要な産油国が財政を均衡させる原油価格の水準は、
イランが130 ドル前後、サウジが100ドル前後、クウェートで50ドル前後と
試算されています。OPEC加盟国ではありませんが、ロシアは110ドル
前後とみられています。産油国がシェールつぶしを狙っても、低水準の
原油価格が長期間続くと、産油国側にも影響が大きいのです。
ロシアでは通貨ルーブルが急落し、経済の先行きに懸念が生じる
「逆オイルショック」と呼ばれる事態となっています。
OPECは現在、市場価格とアメリカのシェールガス業界の動向を
にらみつつ、産油国にとって望ましい価格水準を研究しているものと
見られます。市場関係 者の間では、原油価格は1バレル=30ドル台
まで下がるとの見方もある一方で、原油価格が上昇に転じる時期は
さほど遠くないとの見方もあります。
原油価格 は当面、底値を探りながら不安定な状況が続く見通しです。
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米シェール企業を原油安が直撃 昨年来、初の経営破綻
経営破綻(はたん)した。昨年来の原油安以降、初めての
破綻ケースとされる。このまま原油の値下がりが続けば、
今後も同業の破綻が増える可能性がある。
破綻したのは、米南部テキサス州でシェールオイル・ガス開発を
手がけていた「WBHエナジー」。米メディアによると、4日付で
同州の連邦破産裁判所に、米連邦破産法11条
(日本の民事再生法に相当)を申請した。
負債の総額は最大で5千万ドル(約60億円)。急激な原油価格の
値下がりで、採算がとれず、資金繰りが悪化したとみられる。
原油価格の国際指標となる「米国産WTI原油」の先物価格は、
昨年7月までは1バレル=100ドル台で推移。だが、その後
下落に転じ、今年に入って1バレル=50ドルの節目を
約5年8カ月ぶりに割り込んだ。
原油安の主な要因は、世界経済の減速による需要減と、
「シェール革命」を背景にした米国での急激な生産の増加だ。
2008年以降、米国の原油生産量は昨年までで8割も増えた。
ただ、地下数千メートルの硬い岩盤から原油の一種である
シェールオイルを取り出すには、コストがかかる。
原油安が広がるなか、米国では石油大手のコノコフィリップスが
今年の設備投資額を2割減らすなど計画の見直しが広がっている。
米調査会社のIHSは昨年11月、今年増産される米国の
シェールオイルの約8割の採算ラインは「1バレル=50〜69ドル」
との予想を出していた。だが今の価格は、その下限も下回っている。
さらに価格が下がれば、多くの企業で採算割れに追い込まれかねない。
WBHもふくめ、シェール開発業者には中小企業が多い。
こうした企業は主に、銀行からの借り入れや社債を発行してお金を
調達し、巨額の投資をしている。シェールの油井は掘り始めてから
数年で枯渇するため、次々と新たな油井を掘り続けないと
採算が取れない。
米シンクタンク、エナジー・ポリシー・フォーラムの
デボラ・ローレンス氏は「投資ファンドの間では、お金を
引きあげる動きもある。破綻が広がるおそれもある」という。
投資計画の見直しが広がるものの、今年の米国の原油生産量は
昨年より増えるとみられている。サウジなども減産に転じる兆しは
見えず、当面は原油安が続く見通しだ。米エネルギー省の
モニツ長官は7日、「今の価格が続けば、設備投資の削減が
さらに増えてくる。状況を注視している」と話した。
(ワシント ン=五十嵐大介、ニューヨーク=畑中徹)
■日本企業、投資を見合わせ
日本の資源開発会社では、シェール開発への投資を見合わせる
ケースも出てきた。石油資源開発(JAPEX)は、カナダ西海岸に
建設予定のシェールガスを液化するプラントへの投資を
延期すると昨年12月に発表した。
液化したシェールガスを19年以降に輸入する計画は変えないが、
カナダ政府の輸出許可が遅れたうえ、原油安で、事業コストの
再検討を迫られた。
同社広報は「現在、投資決定時期を見極めている。油価下落が
続けば、さらにコストの再検討が必要になる」と話す。
そもそも原油安は、シェールに限らず資源開発の多様化を進めようと
する各社に、どこに重点を置くか戦略の見直しを迫っている。
JX日鉱日石開発の三宅俊作社長は全体的な戦略として、
「新規の投資は良い案件を厳選して、採算性の悪いものは始末する
必要も出てくるかもしれない」と話す。
一方で、開発にはチャンスと見る向きもある。7日に開かれた
石油鉱業連盟の賀詞交歓会で、三井石油開発の日高光雄社長は
「資金的に厳しい状況が続くが、海外の企業も苦しい。
良い案件を安く獲得できる好機でもある」と話す。
日本は原油の輸入先の約8割を中東に依存している。
SMBC日興証券の渡辺浩志シニアエコノミストは「開発会社は
投資を抑制して、守りに入るだろう。エネルギーを獲得するルートを
多様化しようとしてきたが、いったん後退することになる」と話す。
ここ数ヶ月で急激に下落した原油価格ですが、
原油の密売で活動資金を調達している武装組織の
資金源枯渇対策かと思っていました。
しかし、そうではないようですね。