朝日新聞 2013年10月28日

圧倒的に多数の人が右利きだけれど、左利きの人もいる。
なぜなのかは、実はあまり分かっていない。人間だけではない。
右利きと左利きの謎はいろんな生物でみられる。
研究者は、生態学や進化学、分子生物学など様々な角度から、
このナゾを解こうとしている。
富山大の水生動物室には、シクリッド科の熱帯魚約80匹が
小分けされた水槽で泳いでいる。竹内勇一助教(神経行動学)が
水槽の一つに1匹の金魚を入れると、金魚の後ろから何度も
襲撃し、鱗(うろこ)を食べ始めた。
よく見ると、この魚が襲うのは金魚の左側面ばかりだ。
「このシクリッドは左利きです」と竹内さんは説明する。
アフリカ中部タンガニーカ湖に生息するシクリッドには、
別の魚の鱗を食べる種類がいる。竹内さんを指導した
堀道雄・京都大名誉教授は1993年、この湖の鱗を
食べる全ての魚には右利き、左利きがあり、うち1種類は、
右利きの個体が多い時期と、左利きが多い時期を
繰り返していることを米科学誌に発表した。
鱗を食べるシクリッドは左右のあごの形が違い、片方側に
開きやすい構造をしていて、遺伝もする。右利きが多いと、
餌となる魚は右後ろを警戒するようになる。すると、
左利きのシクリッドがたくさん餌を捕れて栄養状態が
良くなり、多くの子孫を残せる。
その結果、左利きが増えるというわけだ。
竹内さんはこの魚を輸入し、捕食行動を詳しく調べた。
利きと違う側からの襲撃では失敗が増えることや、
利き側から襲う体勢をとりやすい側によく体が曲がる
ことを突き止めた。
どんなしくみでこの利きがコントロールされているのか。
竹内さんは脳の神経細胞「マウスナー細胞」に注目し、
神経レベルでの反応を調べている。
「僕らが持っている左右の利きを考えるとき、神経が
制御するという面からのヒントがこの魚から出てくるはず」
右と左の不思議な関係はヘビとカタツムリの間にもある。
カタツムリの殻の巻き方は種によって右か左かが決まっている。
実際には圧倒的に右巻きが多いので、カタツムリを餌とする
ヘビは右巻きが食べやすいように適応して「右利き」になる。
そんな仮説に10年間取り組んできたのが京都大白眉
(はくび)センターの細将貴特定助教(進化生物学)だ。
細さんは、日本では石垣島と西表島にしか生息せず、
カタツムリを主食としているイワサキセダカヘビに着目。
標本を丹念に調べると、右の歯が左より数が多かった。
米国の博物館から同じ科に属するヘビの骨格標本を
取り寄せて調べても、やはり右の歯が多かった。
右巻きのカタツムリを食べるとき、ヘビは左右のあごを
別々に動かし殻の奥に逃げ込んだカタツムリを引きずり出す。
右巻きなら、ぎっしり並んだ右の歯でしっかり食いしばり、
左の歯を奥に差し込んで引きずり出す。
その際、ヘビは顔の右側を必ず上にしてかみつく。
この「右利き」ヘビがいる地域では、左巻きの種が属する
カタツムリのタイプが多い傾向にあった。ヘビの捕食から
逃れやすかったために、右巻きから左巻きへと進化して
きたと説明できる。
細さんはこうして「右利きのヘビ仮説」を証明した。
「ヘビとカタツムリにはすばらしい進化過程があった」と話す。
では生物の体の中では何が右と左を決めているのだろうか。
左ヒラメに右カレイ。食卓の常識は、養殖してみると思わぬ
結果を生む。高級魚「ホシガレイ」は天然には身の右側面に
二つの目があるが、養殖すると3〜4割ほどが左側面に
二つの目があったり、両側面にそれぞれ目があったりする。
東北大の鈴木徹教授(魚類発生学)はヒラメとカレイの左右の
謎に取り組んできた。ヒラメやカレイは稚魚のころは
左右両側に目があるが、成長するにつれて、目が片方の側に
移動していく。
鈴木さんは内臓の位置を決めるのに関係する「ノダル経路」と
呼ばれる複数の遺伝子の相互作用に注目。人工的に育てると、
成長とともにノダル経路が働かなくなるホシガレイがいた。
人工的に飼育するとホルモンバランスが崩れ、ノダル経路の
働きが阻害されるとみて、養殖で正常なホシガレイに
なるように実験を重ねている。
人間は約9割が右利きだ。その理由は分かっていないが、
ノダル経路が効いている可能性を示唆する論文が今年9月、
米科学誌プロスジェネティクスに掲載された。鈴木さんは
「人間の脳にもノダル経路がある可能性は十分ある。
実際には機能していると考えれば、
うまく説明できるかもしれない」と話す。(合田禄)
関連記事です。
進化のメカニズム解明?
なぜ「17年素数ゼミ」は生き残ったか
国紙の夕刊が面白い、ということは、このブログでも何回か、
その実例を紹介したが、最近、5月25日付日経新聞夕刊にも、
「素数ゼミ」の謎解明/静岡大理学部チーム、
生存の過程再現という静岡大理学部吉村仁教授
(進化生物学)+兵庫県立大チームの
研究成果が紹介されている。コンピューター・シュミレーションに
よる再現実験であるが、米科学アカデミー紀要電子版に掲載された
論文になっているものである。素数ゼミというのは、素数の13年、
あるいは17年周期で大量発生する蝉のことであり、最近では、
2004年に米東部に17年ゼミが大量に発生した。
問題は、なぜ、素数の繁殖周期を持つセミだけが生き残って
きたのかということだが、素数だと、たとえば、ほかの12年周期や
14年周期のセミとちがって、繁殖期がほかの周期のセミと比較的に
重なりにくいからだとは、すぐに思いつく理由だ。
しかし、それだけでは、素数ではない周期を持つセミがまった
く生き残らないのはなぜかという理由は説明しにくい。
頻繁なほかの周期ゼミとの交雑で、同周期のセミとの出合いの
機会が少なくなり、結果として繁殖力が低下するものの、
ぜんぜん生き残れないというほどのものではないはずだ。
確かに、素数ゼミであろうと、なかろうと、周期が重なると、
ほかの周期のセミと交雑し、子孫を残しにくくなる。
しかし、繰り返すようだが、同周期のセミともある程度交尾は
するわけで、生き残れない、全滅するというのは合点が
いかない。多少は生き残るはずだ。
そこで、静岡大チームは、自然界にみられる「種の個体数が
一定の数を割り込むと、つまり、一定数以下になると、それは
もう絶滅に向かう」という「アリー効果」を人為的に
シュミレーションに加えた。一種の「足切り」効果である。
そうすると、予想通り、周期がなかなかほかのものと
重なりにくい素数ゼミだけが生き残るというわけだ。この結果は
ある意味で、当たり前のように考えられる。当然考えられるのは、
大きな素数ゼミほど、ほかのセミと繁殖期が重なりにくいので、
繁栄するということになりそうだが、あまり次の繁殖期までの
期間が長いと、その間にその素数ゼミの数が減ってしまい、
次の繁殖期までに死に絶えてしまう。そのへんの兼ね合いで、
13、17、19年素数ゼミが繁栄してきたのであろう。
はたまた、あまりに小さい素数、2、3、5、7、11年ゼミでは
ほかの素数ではない周期ゼミとそれほど違わない頻度で交雑して、
これまた、アリー効果で絶滅する可能性が高くなる。
素数ゼミとしては、23、29、31、37年素数ゼミが繁栄していても
おかしくないが、これだと、繁殖期が重なるのは、最低でも
それぞれ46年ゼミ、58年ゼミ、62年、74年ゼミであり、
人生100年程度の人間には、なかなか23、29、31、37年ゼミが
繁栄しているのか、それとも交雑により絶滅に向かっているのか
観察して実際に確かめるには、観察期間が数百年以上
かかるだろうし、実際繁栄していても気づかないのかもしれない。
以上のようなことは、論文に書いてあるのかどうか、知らない。
また、アリー効果の足切りをどこでするのかの線引きによらず、
13、17、19年素数ゼミの順で生存個体数は増加するだろうと
予想される。しかし、シュミレーションの結果は、個体数の
多い順は17、13、19年素数ゼミの順だったというのは
なぜだろう。この一つの解答は、13素数ゼミは、11素数ゼミと
同様、素数としては小さく部類に入り、交雑が激しいから、
むしろ絶滅の部類には入らないにしても、繁殖はそれほどでも
なかった。繁殖急増は17素数ゼミから始まるというわけであろう。
しかし、23素数ゼミでは、上記の理由により、これまた
繁殖がそれほど急激にならないというわけで、
結局、13、17、19素数ゼミが生き残った。
ただ、問題は、このパラメーターの設定次第で結果が
いかようにもなるということのないよう、パラメーター設定値が
自然界での実際に近いものでシュミレートすることが
大事である。この設定値を小さくすれば、素数ゼミの
生き残り優位性はなくなるだろうし、大きく設定すれば、
その優位性は顕著になることが予想される。
コンピューターでやれば、何らかの結果は出るのであり、
これをもって、進化のメカニズムが解明できたとするのは
早計な気がする。
こうしたことを考えると、もう一分張りなぜ素数ゼミの中でも、
13、17、19年素数ゼミだけが繁栄しているのだろうかと
いう謎解きも要るように思う。
コメントです。
生物界での右利き・左利きの話題です。
本文を読んでみますと、最終的には
「種の継続」に至るようですが、それにしても
自然界って不思議で興味深いことが多いですね。
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